【火星移住計画】イーロン・マスクが描く壮大な人類の未来

世界の真相

始めに

2023年4月20日、イーロン・マスクのSpaceX社は自社が開発した大型ロケット兼宇宙船の Starship の初めての軌道飛行試験を実施しました。離陸から数分後、機体は姿勢の制御を失ったため、コントロールセンターによる爆破コマンドで空中爆発させられ、初回の飛行実験を終えました。しかし、最終的に指令爆破したとは言え、今回の実験は予定していた目標を全てクリアできたため、確実に一歩前へ進んだと言えます。

現段階の人類が持つ知識と技術では、惑星間航行の実現にはまだまだ長い道があると考えられていましたが、Starshipの誕生は火星への航行を実現可能なレベルに引き上げました。ただし、これはまだ全ての始まりに過ぎず、その背後にはさらに壮大な計画が予定されています。今回は、SpaceX社のStarshipから始まり、イーロン・マスクが描いている「人類の火星移住計画」という壮大なプロジェクトまでをお話していきたいと思います。ぜひ最後までお付き合いくださいね。

イーロン・マスク

南アフリカで生まれ育ったイーロン・マスクは、幼少期から内向的な性格の持ち主で、学校ではクラスに溶け込むことができず、階段から突き落とされたり、気絶するまで殴られたり、ひどいいじめにも遭っていました。高校卒業後、彼はアメリカのペンシルベニア大学に進学し、経済学と物理学の学士を取得しました。24歳でスタンフォード大学の大学院へ進学し、高エネルギー物理学を専攻して、研究の世界に足を踏み入れましたが、弟の影響で大学院を休学し、起業の道を選びました。

彼が起業した1社目のZip2は、創業してわずか4年で、PCメーカーのコンパックに3億700万ドルという値段で売却を果たし、マスク個人は2200万ドルもの大金を受け取ることができました。その後、彼はオンライン決済サービスのPayPalを設立すると、それはアメリカ政府が保証する最初のオンライン銀行となり、大きな成功を収めました。設立からわずか3年後、マスクはPayPalをeBayに15億ドルで売却し、彼個人も1億7000万ドルを受け取りました。そしてその年に、マスクはこの1億7000万ドルを元手に、宇宙航空会社のSpaceXを設立しました。

SpaceX

当時のイーロン・マスクは現在ほどの高い認知度や影響力も持っていなければ、SpaceXもごく普通の中小企業でした。世間から見れば、取るに足らない民間企業が突然、宇宙輸送や衛星インターネットサービスなどを通じて、人類を火星に送り、最終的に火星の植民地化を実現するという目標を叫び出したのです。これはどう見ても注目を集めるためのマーケティング戦略で、会社が有名になった途端またいつものようにマスクは会社を売却するはずだと、当時の誰もがそう思っていました。しかし、予想は大きく外れました。SpaceXの設立後、マスクは本格的に軌道飛行のできるロケットを開発し始めました。彼はエンジニアたちを集め、次のようなことを言いました。

「私が持っている資金では、3回の打ち上げしか実施できません。3回以内で成功できなければ、SpaceXは終わりです」

もちろんこれはエンジニアたちにプレッシャーをかけるための言葉でもありますが、その内容は嘘ではありませんでした。当時開発中の「ファルコン1」ロケットは、1億ドルを超える開発費用が投じられていました。さらに、打ち上げ実験にも大きなコストがかかるため、当時のSpaceXの資金的な体力では本当に3回の打ち上げしか実施できないことは事実でした。2006年3月、1回目の打ち上げが行われました。

ファルコン1

離陸からわずか30秒後、ロケットのエンジンが作動停止し、機体は地面に墜落して大きな爆発を起こしました。初めての打ち上げは見事な失敗で終わりました。そして、1年後の2007年、またその1年後の2008年、立て続けに実施した2回目と3回目の打ち上げも、失敗に終わりました。これでSpaceXの資金は底をつきました。

そもそも、軌道飛行のできるロケットの開発は、普通は国家レベルの組織がすることです。資金もマンパワーも限られている民間企業が、しかも3回以内でそれを実現するのは不可能であると、SpaceXは身をもって実証したのでした。

このまま破産すれば、負債を背負い込むことなく済ませられましたが、マスクはその道を選びませんでした。彼は会社の管理職レベルのメンバーを集めて、自分の決断を伝えました。

「資金調達は自分が何とかするから、次の打ち上げを必ず成功させてください」

ちょうどこの時期、マスクの「テスラ」社も業績不振に陥っており、彼は打ち上げ実験の資金を集めるために、個人の資産を抵当に入れるまでの賭けに出たのです。なんとか4回目の打ち上げを実現しましたが、問題はここからです。画面越しでも彼の緊張が伝わってきますが、それがいったいどれだけの重圧なのかは、想像もつきません。今回の打ち上げも失敗に終われば、大きな負債ばかりが彼に残され、その壮大な計画も諦めなければなりません。

ファルコン1の成功は、SpaceXが正真正銘の宇宙航空機メーカーになったこと意味するのだけではなく、この会社は航空事業において、国レベルの組織と同等な存在になったことをも意味します。賭けに出たマスクが今回の打ち上げで得たのは名誉だけではなく、後にNASAから16億ドルのビッグオーダーまで獲得するに至りました。そのおかげでSpaceXは飛躍的に発展し始め、自社のロケットを中型クラスのファルコン9にまで進化させました。

ファルコン9は機体が回収できるため、何度も再使用することが可能です。これによって衛星軌道への輸送コストを大幅に下げることができ、SpaceXはどこよりも遥かに安い価格で商業衛星市場における大きなシェアを獲得しました。またこれだけではなく、SpaceXはその後NASAからさらに26億ドルのスーパーオーダーを得て、世界1の宇宙航空機メーカーという地位を固めました。

そこから、SpaceXは再利用可能なロケット技術を駆使して、Starlink計画の実施に着手しました。Starlinkというのは、低軌道に通信衛星を設置することで、地球のほぼ全地域に衛星によるインターネットアクセスを実現させるという計画です。2023年5月まで、SpaceXは既に4000基の通信衛星を軌道に設置しました。

計画の最終目標は12000基の衛星を設置することにより、現在のどの通信会社よりも安価かつ高速なインターネットアクセスを全世界に提供することです。このように、SpaceXは順調に発展しており、2018年には大型ロケットのファルコンヘビーの打ち上げに成功し、さらに超大型ロケットかつ宇宙船である「Starship」の開発にも取り組み始め、2023年4月20日に、冒頭でご紹介した打ち上げ実験を実施しました。このStarshipは、火星移住計画の始まりの一歩となります。

Starship

マスクによると、現段階の科学技術で火星移民を実現するためには、火星に飛行するためのロケットは次の4つの条件を満たさなければなりません。

1、完全に再利用可能であること。つまり、宇宙飛行の後、ロケット全体を回収および再利用可能にすることによって、定期的な火星への往復飛行が要求するコストを現実的な水準に抑えます。これにより、火星移住計画も現実的な目標となりえます。

2、軌道上で燃料補給が可能であること。ロケットは軌道に入ってから、火星に到達するまでの燃料を補給します。出発時の地球上で入れておく燃料を最低限にできれば、ロケットはより多くの貨物を積むことができます。

3、ロケットの燃料は火星でも製造可能であること。同じように、ロケットが地球へ戻るための燃料を積まずに済めば、より多くの貨物を運ぶことができます。

4、ロケットが使用する燃料は安価であり、保存と輸送も容易に実現できること。

以上のことから分かる通り、いかに低いコストでより多くの貨物を輸送することができるかがキーポイントなっています。このキーポイントを実現するためにデザインされたStarshipの機体素材は、1キログラムあたり130ドルのカーボンから、1キログラムあたり4ドルのステンレス鋼に変更されました。また、ロケットの燃料はメタンと液体酸素が使用されていますが、これは、火星の地下にある氷と火星の大気に満ちた二酸化炭素を原料に、火星でもメタンと液体酸素を生産できるからです。

さらに、Starshipが他のロケットと異なるのは、1段目の「スーパーヘビー」と名付けられている部分はブースターで、2段目の「Starship」と名付けられた部分は軌道滞在が可能な乗客・貨物兼用の宇宙船となっている、という設計上の特徴です。長さ70メートルもあるスーパーヘビーには、SpaceXが自社開発した33基の「ラプター」エンジンが搭載されており、合計76MNの推進力を誇ります。これはアポロ計画で人類を月面に送ったサターンVロケットの推進力の2倍です。2段目の「Starship」は高さ50メートル、6基のラプターエンジンが搭載されており、100トンの貨物と100人を搭乗することができます。

およそ40階建ての高層ビルと同じ規模感を持つStarshipは、貨物搭載量が100トンの場合、1回の打ち上げコストは1キログラムあたり20ドルしかありません。これは東京からニューヨークまでの空輸コストよりも安い計算になります。また、搭乗人数を100人とすると、1人あたりのコストもたったの2万ドルです。このように、完全に再利用できるStarshipによる非常に低いコストこそが、現在の科学技術でも火星への往復飛行が可能となる理由です。

発射実験

2023年4月20日、史上最大のロケットStarshipが離陸しました。ライブ放送の映像からも分かるように、エンジンのうち3基が最初から正常に作動していませんでした。

ただ、これは大きな問題ではありません。数基のエンジンが故障しても、ロケットの制御には大きな問題にならないのです。途中でまた数基のエンジンが作動停止しましたが、ロケットは無事に最大動圧点のMax Qを通過しました。

Max Qというのは、ロケットが飛行中に最大の圧力を受ける時点であり、ロケットが最も解体しやすい瞬間でもあります。Max Qを通過することは、Starshipが1つの大きなハードルを超えたということを意味し、ロケットの構造には問題がないということが分かりました。

しかし、飛行高度が28 km、速度がおおよそマッハ2に達した時、機体は制御を失い、空中で回転し始めました。地上で事故を起こすリスクを避けるために、コントロールセンターは自爆命令をロケットに送信し、Starshipの初回の打ち上げ実験を終えました。ただし、指令爆破したとは言え、事前に予定していたミッションは全てクリアしており、打ち上げは成功したと言えます。SpaceXの次の仕事は、Starshipを軌道に送って、またそれを無事に回収することです。StarshipはNASAが計画している有人月面着陸のアルテミス計画が使用する着陸船としても選定されたため、この史上最大の宇宙船は近いうちに完成するでしょう。

火星移住の理由

これでやっと人類が火星に向かうための最初の一歩を踏み出しました。しかし、そもそもなぜ人類を火星に送る必要があるのか?火星移住計画に使われる資金やマンパワーを、砂漠などの環境改造に使えば、人口の移住をこの地球上で簡単に実現できるのではないのか?という疑問を持つ人が多くいると思います。たしかに、私たち自身の一生、もしくは私たちの孫や、孫の孫の世代くらいまでを範疇として考えると、火星移住の差し迫った必要性はないように思われます。しかし、もっと長いスパンで見れば、未来の人類が歩む道は2つに分かれます。

1つは、私たちはずっと地球に留まり、最終的には、何らかの絶滅イベント、例えば、隕石の衝突、気候の激変、ポールシフトなどによって種族の全滅という結末を迎える、という道です。時期は未知数ですが、何らかの絶滅イベントはいつか必ず起きます。もう1つの道は、地球で起きる絶滅イベントを避けるために、宇宙に進出し居住地を他の惑星に広げるという道です。マスクは、2つ目の道を切り開こうとしています。そして目標となる植民地は、地球から到達しやすい、かつ環境改造も実現しやすい火星となりました。では次は、火星移住は一体どのように展開されていくのかを見ていきましょう。

火星、そこには大気が存在しているものの、その量は地球の1%しかなく、ほとんどが二酸化炭素です。ここの平均気温は約-60度であり、夜間はさらに冷え込みます。火星には地球のような磁場や分厚い大気がないため、その地表は常に宇宙からの放射線にさらされています。さらに、火星には液体の水がほとんどなく、季節によっては惑星規模の砂嵐も発生します。放射性物質がたくさん含まれているこの砂嵐も、人類にとっては致命的な存在です。

火星移住計画

このような厳しい環境を人類の植民地にするのは、非常に高いハードルですが、火星移住計画は次のような展開で火星環境を征服しようとしています。SpaceXはまず、燃料、水、食物、太陽電池パネルと生命維持システムなどを火星に送ります。物資面の準備を整えた後、100名の先駆者を乗せたStarshipが約7か月間の飛行を経て火星に到着します。彼らの最初の任務は、火星の地表で臨時の基地を建てることです。この基地は先駆者たちが一時的に住むための施設であるため、国際宇宙ステーションと似たような組み立て式で簡単に出来上がります。ここを拠点として、先駆者たちは主に火星探査車で探索を実施します。

目標は周辺地域に存在するかもしれない鉱山や地底湖を見つけることです。特に地底湖に関しては、これまでの研究で、火星の地下に地底湖が存在する可能性は高いと考えられており、それを発見することができれば、浄化処理によって、火星現地で水を調達することが可能になり、今後の計画がずいぶん展開しやすくなります。

ただし、最初の100人によって立ち上がった火星基地はあくまでも一時的な施設であり、長期的に火星に駐在するためには、宇宙線や放射性物質を含んだ風塵を完全に防ぐことができる基地の建設が必要です。NASAは2015年に「火星シェルターコンペ」を開催し、全世界でアイデアを募集しました。最終的に、Hassell建築設計事務所による次の案が採用されました。

まずは、火星地表の土壌や鉱物を原料として、3Dプリンター技術によってシールドを作ります。この楕円形状の分厚いシールドは、宇宙線や砂嵐をシャットアウトできます。人間を火星に送る前に、先に火星に到着したロボットがシールドを完成させます。

これらのAIが搭載されたロボットは、原料の採鉱からシールドの3Dプリントまでを一貫して実行します。数か月をかけてシールドを完成させた後、宇宙飛行士たちがシールドの内部に設置するシェルターを持って火星に到着します。彼らはロボットの協力の下で、シェルターをシールドの内側に設置し、電力システムや給水システムを構築します。電力は太陽光発電所、水は火星の氷もしくは地底湖から供給されます。

完成した基地には、実験室、温室、作業場、ジム施設、寝室などが含まれていて、これが人類にとって火星における初めての“家”となりますここまでは理想的なプランばかり話してきましたが、実際には、火星を開拓する初期の先駆者のうち、少なくない数の犠牲者が出る可能性が高いことは、計画に参加する全員が覚悟しています。大きな努力と犠牲を伴い、火星基地の完成度は徐々に高まっていきます。

ある程度の規模に到達すれば、次のフェーズである火星都市の建設に入ります。地下という選択肢もありますが、長期的に火星で滞在する人のメンタルヘルスを考慮すると、地球の生活と同じく昼と夜を体験できる環境が重要と考えられます。そのため、ドームで覆われた地上都市が建設されます。初めての火星都市の完成には30~50年を要すると予想されています。この都市が完成する時の火星人口は約1万人と予想されていますが、ここからはまた新たな問題と直面します。

地球から遠く離れたこの都市で生じるかもしれない様々な社会問題にどう対処するのかという論点です。火星での生活資源は限られており、食料、水、酸素などの基本的な資源の公平な分配が非常に重要です。ここで、特定の個人やグループが資源を独占することによって、他の人を支配する場面が出てくる可能性は否定できません。また、火星への植民は法律や規則に基づいて運営されるものの、地球から遠く離れているため、それらの法律がどの程度まで火星都市に適用され、かつ実効力を持ちうるか、また新たな法律や規則をどのように作り上げていくのかも課題となります。

さらに、人口が増えていくにつれ、火星で妊娠出産することも予想されますが、火星環境で生まれた新生児は健康的に育つことができるのかについてはまったくの未知数です。そのため、そもそも火星での妊娠を禁止すべきか?妊娠した場合はどうするのか?という倫理的な問題も生じます。仮に全ての問題が順調に解決され、火星が完全に居住可能な惑星に改造された場合でも、火星で生まれ育った人は、きっと地球に対する帰属意識は薄くなると予想されます。このような人間たちによって構築される未来の火星文明と地球文明との関係も気になるところです。

最後に

挙げればきりがないほどの課題や論点が存在するとおり、火星への移住計画は、多くの困難に満ちた長い道に違いありません。その道のりは、極めて高度な技術的課題の克服から、全く新しい環境、そして最終的には新たな社会の創造に至るまでの壮大な挑戦となるでしょう。一見、現在の我々とは関係のなさそうなイーロン・マスクの火星移住計画ですが、数百年、数千年後のあなたの孫たちは、きっと最初の一歩を踏み出した彼に深く感謝するでしょう。それでは今日もご視聴ありがとうございました。

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