はじめに
人は誰でも“これから”のことが気になると思います。未来のことは知りたいでしょうし、未来のことを一度は想像したことがあるでしょう。100年前の人たちも、21世紀はどのような世界になるのかを想像したり、予測したりしていました。その予想の多くは、的中しています。なぜなら、彼らは当時の社会の発展状況から、適切な推測と想像力で、サイエンス的な観点から見ても筋の通った分析を行っていたからです。
現在の私たちも同じような手法で推測をしてみれば、人類の未来が大まかに分かるかもしれません。今回は、推測力と想像力を働かせた、これからの100万年の中で人類が迎えるかもしれない未来を見てみましょう。ぜひ最後までお付き合いくださいね。
2023年〜2050年
2017年12月、当時のアメリカ大統領のドナルド・トランプは“宇宙政策指令第1号”に署名し、新たな月探査計画である“アルテミス計画”をスタートさせました。それからトライアンドエラーを繰り返し、当初の予定である2024年より1年遅れながらも、人類は2025年、およそ半世紀ぶりに再び月に足跡を残しました。今回の有人飛行は最初から最後までYouTubeで中継され、ピーク時の同時視聴者数は驚異の4億人に達しました。計画を主導するNASAは多くの貴重なデータを取得し、月面基地の建設にも取り掛かりました。
ロケットと着陸船の開発・運用を担当したイーロン・マスク氏のSpaceX社は、アルテミス計画で大きな成功を収め、民間宇宙企業のトップ地位をさらに固めた上、同じく2025年に、SpaceXが長年取り組んでいたStarlink計画においては、打ち上げた通信衛星の数が合計42000基となりました。これにより、地上の通信インフラが整っていない国を含めて、ほとんどの地域はインターネットに接続する手段を、より安くより高速なStarlinkに切り替えました。
これを受けて、世界中の通信会社はかなりの苦境に陥りました。しかしイーロン・マスクの進撃はさらに加速していきます。彼のOpenAIという、人工知能の研究に特化したラボが、2022年にChatGPTという革命的な会話型チャットロボットを発表し、世間を驚かせました。Googleを始め、検索エンジンを事業としている全ての企業がChatGPTの誕生で大きな危機感を抱き、ChatGPTに対抗できる次世代人工知能の開発に力を入れ始めました。これによって人工知能の進化はさらに加速していき、2050年までには、ほとんどの単純な頭脳労働はAIに置き換わります。運転手、翻訳者、ほとんどの事務職などの職業以外にも、デザイナー、作曲家、画家、プログラマーといった専門職やクリエイティブな職能でさえ、一部の仕事はAIに奪われました。
2050年〜2100年
アメリカ以外の国も有人月面探査に成功し、各国は月面基地を建設し始めましたが、アメリカはNASAとSpaceXの主導で、2050年に宇宙飛行士を火星に送ることに成功しました。火星の表面に降り立った宇宙飛行士は、1969年にアームストロングが月面に着陸した時のあの言葉をもう一度全人類に向けて話しました。
「One small step for a man, a giant leap for mankind ー 人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍だ」
またその頃、飛躍したのは航空技術だけではなく、人工知能もさらに一段進化しました。Googleのような検索エンジンサービスは完全にAIアシスタントに取って代わられ、人々は自分だけの秘書や先生が付いているような感覚で、調べ物や分からないことがあれば、AIアシスタントに聞くことですぐに正確な解答を得ることができるようになりました。これに伴い、大学までの学校教育では知識そのものより、考え方や道徳などの教育に重心が切り替わりました。
このAIアシスタントというものは、携帯やパソコンなどの端末ではなく、人間の脳に埋め込まれたチップによって実現されたものです。これを実現させたNeuralink社は、またもイーロン・マスクの会社です。しかし、このようなAIアシスタントがもたらしたのはメリットだけではありません。よりお金を出せば、より高性能なチップを手に入れられるので、計算能力と記憶力に関しては、お金持ちのほうが強いという傾向が出始め、人類社会は初めて、思考能力においても“貧富の差”が表れ始めました。
2070年、「ハイパーループ」という新交通システムが実用化されました。これは、地下と海底に設置された真空チューブを利用し、列車を磁気で浮上させて走行させる技術です。時速5000kmほどの高速を出せるので、東京からニューヨークまでたった2時間ほどしかかかりません。しかも、走行時に二酸化炭素を排出しないので、環境面においても優れています。これにより旅客機は過去の乗り物となりました。この「ハイパーループ」もまた、イーロン・マスクの会社によって実現されたものです。
2080年、量子コンピュータ技術はやっと実用レベルに達し、コンピュータの処理速度と計算能力は新しい次元に突入しました。そのおかげで、その頃のAIはさらに発展していき、ある特定の分野だけではなく、汎用性のあるAIに進化しました。
2090年、世界初の宇宙エレベータが完成しました。宇宙エレベータはカーボンナノチューブという素材で作られ、静止衛星の軌道である高度3万6000kmにまでたどり着きます。その完成によって、宇宙飛行のコストは大幅に下がり、一般人でも宇宙旅行ができるようになっています。
2100年、世界人口は110億人に達しました。今では地球で栽培される穀物だけで養える人口の上限は100億人と考えられていますが、この頃には、それを10億人超えても、持続可能な社会が続くようになっています。解決の糸口となったのは、遺伝子組み換え技術と実用レベルに達した人工肉技術です。以後、食料危機が人類を襲うことはありませんでした。
2200年~
従来の原子力発電所が使用している「核分裂反応」は、エネルギーの変換効率が低く、放射性廃棄物の問題や原発事故のリスクも高いものです。それと比べ、「核融合反応」は、エネルギーの変換効率が高いだけではなく、放射性廃棄物もほとんど出しません。そのエネルギーの生まれる仕組みは太陽と同じであることから、「核融合反応」は“人工太陽技術”とも呼ばれています。
人類は200年間の努力と技術の蓄積によって、やっと2200年頃に核融合反応技術を実用レベルに実現させました。人類はここにきて、究極のエネルギーを手に入れました。そこからさらに50年の発展を経て、地球文明はとうとうカルダシェフ・スケールの文明レベル1の「惑星文明」となりました。宇宙文明のレベル分けについては動画や投稿でお話したことがありますので、気になる方はこちらをチェックしてみてください。
その頃の社会は、石油などの天然資源依存の体質を完全に抜け、原子力社会に進化しました。生産活動や日常生活に使われる全てのエネルギーは核融合反応発電所による発電で得られています。宇宙開発に関しては、2500年までに人類は太陽系のほとんどの惑星に有人宇宙船を送ることに成功しました。火星基地の建設も順調に進んでおり、火星に長期駐在する仕事はリスクが伴いますが、かなりの高給で人気のある職種になっています。
また、宇宙エレベータ技術の応用として、カーボンナノチューブなどを建材に使うことで、高さ1万mもある超高層ビルが一般的になっており、人類の居住エリアは上空にまで拡張されました。人工知能に関しては、マニュアルにまとめられる仕事であれば、ほぼ全てAIに任されています。
これにより、人間の働く時間は大幅に減少し、多くの人は芸術分野に関わる仕事、もしくはAIの制御と開発に関わる仕事に就くようになっています。しかしAIに頼っているとはいえ、人類はAIを自己進化ができないように制限をかけています。そうでないと、この強力なツールはいずれ人類自身を破壊してしまうかもしれないからです。
2600年頃、「ナノマシン技術」は実用レベルに達します。0.1〜100ナノメートルのウイルスサイズの人工装置を人体に注入することにより、がん細胞などの標的細胞をピンポイントで攻撃できる上、変異したDNAの修復までできるようになります。さらに、特定のウイルスや菌を攻撃することもできることから、人類はがんやウイルス感染症などの難病を完治できるようになっています。再生医療分野においても、ほとんどの臓器が再生できるようになりました。うまく機能しなくなった“パーツ”や、事故で失った“パーツ”は、簡単に再生することができます。これらの技術のおかげで、その頃の人類の平均寿命は大幅に伸びました。
また、長寿命に影響を与えた要素には、遺伝子組み換え技術の発展もあるのですが、このことから、さらに次のような展開が生まれます。子供が生まれる前の段階で、ある程度は、子供の外見、知力、性格と体型を望む通りに変えることができます。いわゆる“デザイナーベイビー”の誕生です。倫理的な問題で、ほとんどの国はそれを法律的に禁止していますが、一部の国は利益のために、高額でそのようなサービスを提供し続けています。世界中のお金持ちは、自分の子供の遺伝子改造を受けて誕生させ、その子供たちはどの面においても一般人より優れており、社会の様々な資源と権力はなおさら富裕層に集中するようになりました。
結果、世界的な社会崩壊が起きかけて、世界各国は仕方なく遺伝子組み換えサービスを全面的に開放し、誰でも受けられるようにしました。これによって新生児たちはまた同じスタートラインに立つことになります。そこから人類はとうとう“神”の力を手に入れ、初めて自らの進化の方向を選べるようになりました。
10万年後
人類がレベル1の文明に上がってからかなりの年月が経ちますが、約10万年後、地球文明は次のステップであるレベル2の「恒星文明」に突入します。それまでの人類は、核融合反応で獲得したエネルギーを社会活動のニーズを満たすために使用してきましたが、科学技術の発展のニーズにより、だんだんエネルギーが不足していくようになります。そのため、さらなるエネルギーを求めて、直接恒星である太陽からエネルギーを獲得する必要性が出てきました。これが「恒星文明」という呼び方の由来です。
太陽が何十億年も燃え続けている理由は、その内部で常に核融合反応が行われているからです。そのエネルギーを余すことなくすべて獲得できれば、人類にとっては無限に近いエネルギーを得たと言えるのです。
太陽から直接エネルギーを獲得する方法は、今までの動画で何度もお話したことのある「ダイソン球」という人工装置です。ダイソン球は恒星を卵の殻のように覆うことにより、太陽が出したほとんどのエネルギーを獲得することができます。このエネルギーの量は、レベル1の惑星文明が得ていた量と比較にならないほど、驚嘆すべきものとなります。そのおかげで、人類は太陽系のすべての惑星間で自由に行き来ができ、宇宙移民も本格的に始まりました。
一方、地球にいる住民は、地表のみならず、地球の周回軌道上に建設されたスペースシティでも生活するようになっています。スペースシティというと、無重力空間の中でふわふわと過ごす様子を想像してしまうかもしれませんが、そのような問題はありません。その頃には人工重力の技術ができているため、地上と変わらない生活体験が得られます。
また、火星は10万年間の長い歳月をかけた環境改造により、人類が生活できるような惑星になっています。この頃には、人類の約3分の1は火星で生活しています。彼らはもっと火星環境に適応するために、火星の自然環境だけではなく、自分の体を遺伝子レベルで改造しています。この頃の遺伝子組み換え技術は、文明レベル1の時よりさらに進化しており、火星にいる人類は、乾燥し、かつ大気の薄い環境でも問題なく生きることができるようになっている上、長い期間飲食をしなくても平気でいられて、宇宙線にも被曝しにくい体になっています。
社会面においては、結婚という制度はとっくに消えており、多くの人は人造ロボットをパートナーにしています。子供がほしい人は遺伝子プールから相手の遺伝子を選び、体外で生育します。また、ネットワーク上で構築される仮想世界の「メタバース」は、完全な形にまで進化しました。仕事、社交、娯楽、エンターテインメントなど、ほぼすべての活動はメタバースで行えるのです。したがって、現実世界と仮想現実の境界線は徐々に薄くなっています。
100万年後
100万年後の人類の文明は、レベル3の「銀河文明」にまで進化しています。
なぜこう呼ばれているのかと言うと、銀河にあるほぼすべての恒星に、人類のダイソン球が付いており、それらは全て人類のエネルギー源となっているからです。
つまり、人類は銀河全体を支配できるようになったのです。SF小説にある「ワープ航法」、「反重力装置」、「ワームホール移動」などの概念は、100万年後には現実のものとなっています。これらの新技術や新理論はほとんどAIによって完成されたものであり、人類はただAIの管理と制御だけに専念しています。
その時の人類は、移動のための距離を考える必要がほとんどなくなり、銀河のどこにでも行けるようになっていることから、地球と火星だけを拠点とするのではなく、天の川銀河の様々な場所に人類の姿が見られるようになっています。
その頃の社会に目を向けると、人類は文明レベル2の火星移住者と同様に、拠点とする星の環境に適応できるよう、自分の遺伝子を改造します。またそれだけでなく、機械との融合によってサイボーグ化している人も多くいます。その結果、人類という種族には、様々な新しい亜種が誕生しており、そのうちの一部は、外見だけで判断するなら、人間ではなくなったと言えるような者も出てきています。
おわりに
様々な亜種の誕生によって、それぞれの惑星には独自の文化や習慣ができており、中には敵対する派閥も出ていますが、終始大規模な戦争にまでは至っていません。なぜなら、銀河の様々な場所に離れて生きている人類は1つの共通した認識を持っているからです。
「人類の文明がここまで発展できた主な理由の1つは、この100万年の間、1回も大きな戦争が起きていない」
高度な知識を手に入れたその頃の彼らは、誰もが人生の中で最も重要とされている教訓を学びます。それは、彼らの故郷である「地球」で起きていた歴史です。その青い星で起きていた数々の戦争や争いが、どれほど野蛮で愚かなもので、どれほど危険で残忍なもので、どれほど文明を退化させるものであるかを、彼らは心の中にしっかりと刻み込んでいます。
「平和」という、どんな高度な知識よりも重要と言ってよいものを心から理解したその頃の人類は、きっともっと明るい未来を迎えるでしょう。
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