人はなぜ死ぬのか?「死」が存在する本当の理由とは?

生命体の不思議
今回のポイント
  • なぜ人類を含む全ての生物は死を迎えるのか?
  • 死というものが存在する本当の理由は何なのか?
  • 高度な知恵を手に入れた私たち人類は、死を避けることができるのか?

はじめに

この世に「絶対的な平等」というものがあるとすれば、それは誰でも経験しなければならない「死」というものになるでしょう。どれほど権力、お金、技術力を握っていても、死の前では何もできません。死は肉体の消失だけではなく、その人の意識、記憶、知識、感情なども全てなくなります。それこそが、人々が死を恐れる理由です。

では、なぜ人類を含む全ての生物は死を迎えるのか?死というものが存在する本当の理由は何なのか?高度な知恵を手に入れた私たち人類は、死を避けることができるのか?今回は、「死」をテーマにて考えていきたいと思います。ぜひ最後までお付き合いくださいね。

「死を迎えない」生命体

まず、聞いて驚くかもしれませんが、「生物は必ず死んでいく」という言葉は厳密には正しくありません。どういうことかと言うと、生命が誕生してから最初の数十億年間の間、“死なない”生物が多数存在していました。その時のほとんどの生命体は単細胞生物で、彼らの繁殖方法は細胞分裂でした。

母細胞から分裂し2個の娘細胞へ

細胞分裂とは、1つの細胞(個体)が2つの細胞(個体)に分かれるということです。分裂した2つの娘細胞は、元々の母細胞とほとんど変わりがありません。この時、母細胞はこの世から消えますが、その全てを引き継いだ個体が2つこの世に誕生することになります。

もしこれらの単細胞生物に記憶や意識があるのであれば、きっと娘細胞は母細胞の記憶と意識も引き継いだでしょう。ですので、母細胞と娘細胞の間には「連続性」が存在しており、このような細胞分裂が何回行われようが、元となる最初の母細胞は死んでいないと言えるでしょう。

単細胞生物である藍藻

この意味から、これらの単細胞生物は、外部環境による死因以外は、人類のような「寿命を迎える」という死は、彼らには訪れません。「酸素は毒である」の動画や投稿でお話しした「藍藻」は、このような生命体です。彼らは25億年前から地球に現れ、上記のような繁殖方法で今日にまで生きています。この繁殖方法は簡単かつ効率的で、個体には死も訪れません。にもかかわらず、なぜ高度な生命体はこのような繁殖方法と生き方を選ばなかったのでしょうか?その質問に答えるために、まずは藍藻のような単細胞生物より少し進化した生命体の繁殖方法を見てみましょう。

単細胞生物より進化した生物の繁殖方法とその理由

大腸菌という細菌も、細胞分裂で繁殖しています。単純にその分裂の過程だけを見れば、藍藻のような単細胞生物と変わりがありません。しかし、大腸菌の場合、分裂した2つの個体のうちの1つは、まもなく死んでしまいます。もう一方は、元気に成長していき、またそのうち細胞分裂を行います。

なぜ分裂したうちの一方がすぐに死んでしまうのかを研究者が調べたところ、その個体は、母細胞がダメージを受けたDNAやタンパク質などの“有害物質”を全て引き継いでいたことが分かりました。つまり、もう一方の個体は、ダメージを引き継いでいない健康な状態で誕生したということです。

では、このような繁殖方法は藍藻などの単細胞生物と比べて何が進化したか?

娘細胞が母細胞に蓄積してきたダメージを均等に引き継いだ場合、それらのダメージは子孫の個体においてもずっと残ります。つまり種族全体が永遠にダメージを蓄積することを意味します。それらのダメージが一定のレベルにまで蓄積されると、繁殖(細胞分裂)ができなくなるという事態も起こり得るのです。

真実の目
真実の目

そうなれば、種族が全滅することになります。ですので、大腸菌のような繁殖方法は、個体に死をもたらしますが、遺伝子を代々引き継ぐことによって、その種族を永らえることにつながりますよね。

さらに複雑に進化した繁殖方法

そして、遺伝子の生き残る成功率をさらに高めるために、生命体はさらに繁殖方法を複雑に進化させました。その進化の方向は、蓄積してきたダメージをいかに母体だけに残し、新しく誕生した個体は、ダメージゼロの状態から成長していくことです。

これまでのことから、単細胞生物は、生命体の個体に死が訪れないとは言え、様々な外部要因がもたらす影響で、その種族が全滅する可能性が高くなります。種族全体の視点、もしくは遺伝子の視点から見れば、個体の命を犠牲にした進化の方向は、より遺伝子の生き残る確率を高めることができます。

既にお気付きかもしれませんが、生命体の繁殖の目的は、個体の継続ではなく、遺伝子の継代です。実際の生物界を見ても、個体に寿命がある種族は、そうでない種族よりも確実に強い競争力を持っています。単細胞生物などが食物連鎖の最下位にいるのがその証明です。

また、有性生殖で繁殖しているとは言え、もし子孫が、同じ遺伝子を持つ先代と繁殖すると、これはまたダメージを受けた遺伝子を種族の中で蓄積させることになります。ですので、このような状況を避けるために、遺伝子は人類を含む動物たちに「寿命」という制限をかけました。

真実の目
真実の目

そうすることによって、動物たちは仮に自分の子孫と繁殖をしたとしても、寿命という制限が存在するから、その繁殖の機会も限られてきます。

「寿命」という制限から逃れるには

ここまでの内容を聞いて、なぜ遺伝子が個体に死というものをもたらしたかを理解していただいたと思います。では、高度な知恵と科学技術を手に入れた私たち人類は、遺伝子にかけられたこの制限から逃れることはできるのでしょうか?

老化のメカニズム

ノーベル医学・生理学賞を受賞したエリザベス教授

その質問に答えるために、まずは老化による死のメカニズムを見てみましょう。今のところ、生物の老化のメカニズムはまだ完全に解明されていませんが、カリフォニア大学のエリザベス教授らが1つの有力な仮説を提唱し、2009年のノーベル医学・生理学賞を受賞しました。

その仮説が提唱しているのは、寿命は、染色体にある「テロメア」という構造と大きく関わっているということです。テロメアは染色体の末端に付いているキャップのようなもので、染色体に存在する遺伝情報を保護する役目を担っています。私たちの体内にある細胞が分裂するたびに、その細胞の中にあるテロメアがほんの少しずつ短くなっていきます。

細胞分裂ごとに短くなるテロメア

細胞は長年の分裂を経て、テロメアの長さが一定の限界を超えて短くなると、その細胞は死を迎えます。当たり前ですが、細胞が死んでしまったら、その細胞が担当していた“業務”は停止します。このように停止される“業務”が増えていくと、私たちの体が老化していき、最終的には寿命を迎えます。

がん細胞が無限に分裂できる理由は、がん細胞のテロメアはある特殊な酵素によって常に修復されているからです。ですので、テロメアを修復する技術を手に入れることができれば、老化の1つの重要な要因を消すことができます。さらに、酸化によるDNAへのダメージ、DNAの複製時に起きるコピーミスなどの他の老化の要因も1つ1つ消すことができれば、理論上、人類を寿命の制限から解放することが可能になります。

余談

少し話が逸れますが、不老不死を手に入れた人は、その後の人生がどうなるのかを見ていきましょう。その人に起きることを知れば、生物が死の存在する生き方を選んだ理由も分かると思います。

人間には様々な欲があります。例えば俗に言う「三大欲求」は全て、体が分泌する様々な化学物質、つまりホルモンによって引き起こされています。誰かに一目惚れをして恋に落ちるという現象は、根本的に言えばホルモンの影響です。このように、人間の「生きる意欲」も、ホルモンによって引き起こされています。うつ病患者に薬が処方される理由は、その薬が患者の意欲を高められるからです。

なぜこの話をするのかと言うと、仮に様々な技術で肉体を不老不死にできたとします。その肉体で生きていくためには、もちろん「生きる意欲」は必要です。先ほどお話した通り、「生きる意欲」はホルモンによって引き起こされています。しかしこれらのホルモンの分泌は、単に体の状態だけで決められているのではなく、その人の精神状態とも深く関わっています。

様々な出来事を経験すればするほど、ホルモンを分泌させる敷居が高くなっていきます。その人が5万年、10万年と生きていれば、ほぼどんな出来事が起こっても、彼の体はホルモンを分泌させることができなくなり、最終的に彼には「生きる意欲」を含む様々な欲がなくなっているでしょう。そうなれば、彼にとっては生きることはどんなことよりも辛くなるでしょう。

もちろん、不老不死を実現する技術があるのであれば、ホルモンを分泌させる技術もできるだろう、という意見もあると思います。では、ホルモンの問題も技術で解決できたとしましょう。それで愉快な不老不死の人生を送れるのかと言うと、そうでもありません。人は生きていれば、脳は情報を記憶します。しかしその記憶できる情報の量には、上限があります。5万年や10万年も生きている人は、その上限のせいで、必ず以前のことをどんどん忘れていきます。「自分は誰だろう?」という疑問はまだ最悪のことではありません。

何が最悪かと言うと、この時の脳は、以前の記憶(情報)を忘れながら、同時に常に新しい情報を取り入れています。「情報エントロピー理論」によると、何かから古い情報を消し、またそれに新しい情報を書き込む際には、エントロピーは増えていきます。エントロピーの増大は、混乱状態、もしくは混沌状態を意味します。

つまり、永遠に生きている脳は、長い年月の「情報の入れ替え」によって、エントロピーが増大していき、脳が混沌状態になってしまいます。それが具体的にどのような状態なのかについては、誰も永遠の命を経験したことがないので誰も分かりませんが、その時の脳が正常に機能しなくなるというのは間違いがないでしょう。

ですので、遺伝子云々は置いておいて、高度な知恵を持つ人間にとって、いつまでも死なないということは、非常に辛いことです。

真実の目の見解

この話を聞くと、遺伝子は私たちが幸せな一生を送るために死というものをもたらした、と思うかもしれませんが、僕はそうではないと思います。遺伝子はやはり、自分の継続のために、生物に寿命という制限を設けたと思います。

「利己的な遺伝子」という有名な本がありますが、この本も似たようなことを言っています。私たち人間のほぼ全ての行動は、遺伝子によって操られており、私たちは遺伝子に利用されている道具である、と言っても過言ではないでしょう。数十億年間の長い期間において、遺伝子はこの道具を単細胞生物から人間にまで発達させました。その1つ1つの道具はどうなっていても、遺伝子の知ったことではありません。遺伝子が唯一関心を持つのは、種族の長生き、つまり遺伝子自身の長生きです。

しかし、人類の中には、遺伝子を残すことに関心がない人も多くいます。養子縁組をしたり、子供を作るという選択をしない人も多くいます。また、動物界においても、自分が取ってきた食べ物を同類に分けたり、命を張って自分の子供以外の同類を守るなどの行為も見られます。これらの行為は、遺伝子の継続という視点ではメリットがありません。

このような個体が多くなってくれば、遺伝子にとってはあまりよろしくありません。ですので、個体に寿命という制限をかければ、このような“不従順”な個体の数を抑えられますし、個体たちも死の恐怖を薄めるために、自然に子孫を作ってしまいます。これはまるで、このような事態まで、遺伝子が予想できているようにも見えます。

遺伝子はただの遺伝情報が載せられているDNAという分子です。なぜこのような分子がこんなにも生き物たちをコントロールすることができるのか、それは考えれば考えるほど不思議に思いますよね。

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