なぜ人類は宇宙人に出会えないのか?フェルミのパラドックスとは?

宇宙奇譚
今回のポイント
  • このパラドックスに潜んでいる矛盾というのは何なのか?
  • なぜ私たちは宇宙人に出会えないのか?

はじめに

1950年のとある日、アメリカのロスアラモス国立研究所で、当時におけるトップクラスの理論物理学者たちが昼ご飯を食べています。彼らは全員、「マンハッタン計画」のコアメンバーです。話題が宇宙人の話になり、そのうちの一人のエンリコ・フェルミという人が、みんなに次の質問をしました。

「宇宙人はどこですか?」

私たち一般人にとって、これは誰でも考えたことのある一つの素直な疑問です。しかし、エンリコ・フェルミにとって、この質問が存在すること自体、非常におかしなことです。

フェルミは1938年のノーベル物理学賞の受賞者であり、マンハッタン計画において非常に重要な役割を果たしたことから、彼はロバート・オッペンハイマーとともに、「核時代の建設者」と呼ばれています。ここでフェルミの有名な能力を一つご紹介しましょう。それは実際に調査することが難しい問題を短時間で概算することで、正解に近い答えを推定できることです。例えば、地球上に蟻は何匹いるか?アメリカにピアノの調律師は何人いるか?などのような問題を、フェルミは独自の手法でその答えを推測できます。

そのような能力を持つフェルミが、いつもと同じ方法で宇宙文明の数を推定したときに、一つの非常に大きな矛盾に気がつきました。この矛盾の存在で、「宇宙人はどこですか?」という質問自体が、現在ではフェルミのパラドックス、と呼ばれるようになりました。

なぜこの一つの質問がパラドックスになれるのか?このパラドックスに潜んでいる矛盾というのは何なのか?なぜ私たちは宇宙人に出会えないのか?今日はこれらの質問に答えながら、さまざまな角度からこの宇宙の真実を考えていきたいと思います。ぜひ最後までお付き合いください。

「宇宙人はどこですか?」という質問が、パラドックスになっている?

まず、「パラドックス」という単語の意味は、一般に正しいと思われていることに反することを指し、逆説などともいわれます。では、なぜ「宇宙人はどこですか?」という質問が、パラドックスになっているのでしょうか?

フェルミが、地球と似ているような環境を持つ惑星の存在する確率から、宇宙文明の数を推定しました。その結果、観測可能な宇宙においては、100兆個の文明が存在することになりました。これはどれほどの規模かと言うと、私たちがいる天の川銀河だけでも、1000個の文明が存在することになります。

「ドレイクの方程式」によって導かれた知的文明の数

フェルミのこの計算結果に対して、アメリカの天文学者のフランク・ドレイクがさらに厳密な手法である「ドレイクの方程式」を用いて検証しました。検証の結果、宇宙に存在する知的文明の数は、フェルミが推定した100兆個よりも多いことがわかりました。

これらの結果から、もし宇宙にこんなにも膨大な数の文明が存在するのであれば、地球にいる私たちは、彼らが存在する何らかの形跡が発見できているはずです。例えば、宇宙文明の動画や投稿でも紹介しましたが、現在の地球文明がこのまま200年発展すると、カルダシェフ・スケールのレベル1の惑星文明に達します。そこから3000年以上発展すれば、レベル2の恒星文明に到達できます。その上さらに10万年から100万年発展すれば、人類はレベル3の銀河文明にまで到達できるとカルダシェフが考えています。

フリーマン・ダイソンが提唱したダイソン球

文明がレベル3に到達すれば、宇宙においてさまざまな痕跡を残すはずです。例えば、物理学者のフリーマン・ダイソンが提唱した、恒星が放つエネルギーをほぼ全て獲得できるダイソン球を、以前の動画で紹介しました。

それとは別に、数学者のジョン・フォン・ノイマンが、「自己複製宇宙機」という高度な人工物の存在を提唱しました。自己複製宇宙機というのは、生物のように、自分と似た個体を作れる機械のことです。ノイマンが思うに、高度な文明が、資源や生命を探すために、自己複製宇宙機を他の星に送ります。宇宙機が星に到達すると、すぐに同じ個体を一つ複製して、それをまた別の星に向かわせます。これによって、高度な文明がこのような宇宙機をたった一個だけ宇宙に発射したとしても、数百万年の時間が過ぎれば、その文明がいる銀河には、ほぼどこでも自己複製宇宙機の姿を確認できます。

しかし実際のところ、現在の天の川銀河においては、そのような宇宙機の存在はまだ確認されていません。もちろん、ダイソン球や自己複製宇宙機は、高度な文明によって生まれる様々な技術の中の一つの可能性にしか過ぎません。

これらの例を挙げることで、科学者が言いたいのは、宇宙文明が存在するのであれば、その痕跡は高い確率で人類によって観察できるということです。

現在の地球文明がレベル3の文明に到達できるまでの期間を100万年だと考えた場合、この100万年という期間は一人ひとりの人間にとってはとんでもなく長い時間ですが、宇宙スケールで考えてみれば、100万年という期間は、ほんの一瞬です。

地球が誕生したのは46億年前で、この宇宙が誕生したのは、138億年前です。もし、ある惑星が少しだけ地球より年齢が高く、そこで地球より100万年くらい早く文明が誕生したのであれば、彼らは現在の時点において、既にレベル3の文明に到達しているのかもしれません。ですので、この宇宙においては、高度な科学技術を持つ文明によって創造された何かが、あちこちをうろうろしているのが普通です。

しかし現在のところ、宇宙文明が存在する証拠は一つも見つかっていません。ここで生じる矛盾が、「宇宙人はどこですか?」というフェルミのパラドックスの内容です。このパラドックスに対する解釈、つまり、人類はなぜ宇宙文明を見つけていないのかについては、様々な人によって、100個以上の解釈があります。これらの解釈は大きく分けて3種類あります。今から一つずつ詳しくご紹介します。

宇宙文明を見つけられない理由

レアアース仮説

レアアース仮説では、宇宙において地球は非常にまれな存在だと主張していて、地球だけが高度な文明を持っている、とこの仮説は考えています。

他の惑星においては、微生物や細菌レベルの生命体が存在するかもしれませんが、人類のような高度な知恵を持つ生命体が存在する惑星は、地球以外どこにも存在しないということです。その理由として、地球環境のように生命の誕生に必要な条件を全て満たしているのは、不可能に近いからです。地球が持つその表面を覆う大気、地球自身によって生じる磁場、太陽との距離、他の惑星との距離等の、数え切れないほどの厳しい条件を全て満たした星は、宇宙においては地球しかありません。

従って、私たち人類はこの宇宙において初めての高度な文明です。

グレートフィルター仮説

グレートフィルター仮説の内容としては、生命が進化していく過程で、いくつかの大きな壁を越えなければなりませんが、どんな文明においても、越えられない壁が存在するということです。

一つ目の壁「生命の誕生」

文明がこの壁とぶつかった時は、文明の破滅する時でもあります。この壁はどんなものかというと、例えば、「生命の誕生」が一つの壁です。生命体はさまざまな化学物質の複雑な組み合わせと、絶妙な働きによって誕生・存在していますが、現在の人類は実験室でどんな方法を使っても、最も簡単な構造を持つ生命体すら作れません。ですので、生命の誕生は非常に難しいことです。この壁は、文明が発達していく中で、初めて越えなければならない壁です。

二つ目の壁「生命の進化」

次に、簡単な生命体から高度な生命体に進化できるかどうかが、二つ目の壁です。地球における生命体が、簡単な形から複雑な形にまで進化するのに、十数億年間もかかったのは、この壁の難しさを反映しています。

以上の二つの大きな壁を含めて、地球文明が現在のレベルに発達できたのは、私たち人類が既にいくつかの大きな壁を越えたことを意味しています。この先、地球文明を待つ壁が存在するかどうか、存在するのであれば、それはどのような壁なのかは、誰も分かりません。

しかし、その一つの可能性としては、戦争です。人類という種族は、結局世界規模の核戦争によって破滅するかもしれません。もしくは、人類が地球における資源を全て使い切るまでに宇宙移民を実現できていなく、エネルギー不足で人口が徐々に減り、最終的に文明の破滅に至る、という壁にぶつかるかもしれません。

このように、宇宙に存在するどの文明でも、宇宙移民技術を生み出す前に、何かの越えられない壁とぶつかり破滅したかもしれません。私たちがたった一つの宇宙文明すら見つけられないのは、それが原因だとグレートフィルター仮説が主張しています。この仮説が正であれば、地球外生命体を一つでも見つけられないことは、逆に人類の文明にとっては、非常に都合の良いことです。なぜなら、地球外生命体が存在していないのであれば、人類が今まで越えてきた壁は、非常に難しいもので、これらの壁を越えてきた地球文明は、宇宙においては非常にまれな存在だからです。

逆に、地球外生命体の存在を確認できれば、人類が今まで越えてきた壁は、そんなに難しいものではないことを意味します。従って、人類程度の知恵を持つ文明は、宇宙においては別に珍しい存在ではなく、人類の先にはまだ、何らかの大きな壁が存在する可能性が一気に上がります。

他の文明を感知できない説

人類が他の宇宙文明を感知できない説は、僕個人的には最も可能性の高い仮説だと思っています。

人類が地球外生命体を探し始めたのは、直近100年のことです。最近の数十年間は、主に電磁波を探すことで、宇宙文明の存在を確認しようとしています。しかし、他の文明は必ずしも人類のように電磁波を使用しているとは言えません。もっと言うと、他の文明が私たちの目の前にいたとしても、私たちは彼らの存在を理解できない可能性があります。

細菌にとっては気付きようのない「器」である人類

例えば、私たちの体内には、数多くの細菌が存在しています。仮にこれらの細菌がある程度の知恵を持っているとしても、彼らは、器である私たち人類の存在に気づくことができないでしょう。さらに、今までの投稿でよく言っていたように、生命が存在する形は、肉体という形だけではなく、意識体として存在することも十分にあり得ます。そのような実態のない意識体が私たちの周りにいたとしても、私たちは彼らをまったく感知できないでしょう。

個人的に興味ある仮設「暗黒森林理論」

以上がフェルミのパラドックスに対する主な3種類の解釈ですが、もう一つ個人的にすごく面白い解釈をご紹介したいと思います。この解釈は、海外のSF小説家によって提唱された「暗黒森林理論」という仮説です。

この理論によると、宇宙には数多くの文明が存在していますが、これらの文明はどれも、宇宙にある有限な資源を確保し、自分の文明の発展を最優先にしています。従って、その最優先事項の実現における最大の障害は、他の文明の存在です。ですので、この宇宙は、一つの暗黒の森のような存在になっています。

森に生きている数多くの文明が、それぞれ、手に銃を持っている狩人のように、常に自分の気配を消しながら、周囲を警戒しています。お互いの存在を発見した場合、文明の違い、種族の違い、コミュニケーション方法の違いなどによって、お互いの意思疎通が非常に困難となります。

お互いの理解ができない

つまり、相手は友好的な存在か、もしくは敵対的な存在かを非常に判断しにくいことになります。仮に相手が自分は敵意を持っていないと主張したとしても、それが本当かどうかも、判断しにくいですし、自分が敵意を持っていないことをアピールしても、相手は当然それが本当かどうかを判断できません。従って、自分にとっては相手が危険な存在で、相手にとっては自分が危険な存在となります。お互い理解ができない、疑い続ける状況においては、少しでも相手の誤解を招くような行動に出れば、自分の文明が滅びることになるかもしれません。

攻撃によって脅威を取り除く

ですので、自分と異なる文明の存在を発見した場合の最善の手は、先制攻撃によってその文明を破滅させることで、脅威を取り除くことです。

真実の目
真実の目

宇宙にあるほとんどの高度な文明は、この理屈を理解しており、できるだけ自分の存在を隠して活動していますが、地球文明のような、身を隠さずに行動する文明は、いつか必ず他の文明から襲われるかもしれませんね。

この理論が正であれば、ダイソン球や自己複製宇宙機が見つからない理由も説明がつきます。

少し暗い理論ですが、以前の動画や投稿でご紹介した「地球刑務所仮説」も、フェルミのパラドックスの一つの解釈となりますが、これは暗黒森林理論よりも暗い仮説です。また、暗黒森林理論と少し似たような仮説ですが、宇宙には一つのスーパー文明が存在しており、他の文明が自分の脅威になりそうなレベルにまで発展したら、このスーパー文明が必ずその文明を破滅するようにしているということです。

最後に

なぜ宇宙人が見つからないのかについては、以上のように、多くの解釈が存在しますが、どれも完璧なものではありません。しかし、現段階では確実な根拠を持っていないとは言え、これらの解釈の中に、正解が潜んでいる気もします。

私たちの人生において、フェルミのパラドックスの正解を知ることはできないかもしれません。少し悔しい気持ちを持つかもしれませんが、その正解の内容によっては、何も知らないままこの世を去っていくのも、幸せなことかもしれません。

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