【潜水艇タイタン号事故】事件の背後に隠された許されざる闇

世界の真相

タイタン号沈没事故

タイタニック号残骸の観覧を目的とするオーシャンゲート社の潜水艇「タイタン号」は、6月18日のツアーで、突如として地上との連絡が途絶えました。大規模な捜索が行われたものの、4日後の6月22日、タイタン号の破片が深海で発見され、乗っていた5人の乗客も遭難、行方不明となったことが確認されました。この深刻な事故は、深海探査の危険性を世界中に改めて強く印象付けた一方、事件の背後に隠れた数多くの闇も浮かび上がってきました。今回は、タイタン号沈没事故の原因、過程、及び、今まで知られていなかったオーシャンゲート社の闇についてお話していきたいと思います。

ぜひ最後までお付き合いくださいね。

オーシャンゲート社

2009年、オーシャンゲートという観光会社がアメリカのワシントン州で設立されました。会社は、観光、産業、研究、探査のための有人潜水艇サービスを提供しています。似たような会社は他にもたくさんありますが、ほとんどは水深500メートル以内の潜水サービスしか提供していません。なぜなら、深海潜水のできる潜水艦は、ほぼ全て国家レベルの機構によるもの、もしくは軍事分野で使われているものです。

民間企業の中で深海潜水サービスを提供している会社は非常に珍しいです。その理由は、深海潜水艦の設計と製造は、宇宙探査用の有人宇宙船よりも難しく、宇宙開発より深海開発のほうが困難だとされているからです。そして、これほどハードルの高い深海潜水に挑んだ民間企業が、従業員47名しかいないかのオーシャンゲートでした。

オーシャンゲートは2017年に、自社が所有する「タイタン号」潜水艇による「タイタニック号」の沈没現場の観光ツアーの提供を発表しました。これはタイタニックの歴史的な悲劇に関心のある多くの人々にとって、非常に魅力的なものでした。なぜなら、タイタニック号の残骸は、水深約3800メートルの海底にあり、その環境は、深海のとんでもなく強い圧力によって、ほとんどの潜水艇がこれを耐えることができないほど過酷だからです。

一般的には、軍が所有する原子力潜水艦の潜水深度でさえ最大約600メートルしかないのに、一般人が水深3800メートルの深海にまで潜れる上、タイタニック号の残骸を自分の目で確かめることを可能にしたこのツアーは、当時大きな注目を集めるものでした。

ツアーの参加費用は250,000ドルという目眩のするような金額でしたが、それでも数多くの応募がありました。それではここから、軍の原子力潜水艦を“超える”オーシャンゲート社のタイタン号がどれほどすごい物であるか、その実情を見ていきましょう。

タイタン号

オーシャンゲートは3つの潜水艇を所有しており、今回の事故を起こしたタイタン号はそのうち最も深く潜ることができる潜水艇です。タイタン号は全長6.7メートル、横2.8メートル、高さ2.5メートル、重量はおおよそ10トンです。船体の構造は非常にシンプルで、簡単に言えば、炭素繊維とチタンで作られた圧力容器に推進器を付けたものです。

タイタン号の制御は1つのゲームコントローラーが担っており、時速5.6キロメートルで移動することが可能です。また、この潜水艇の通信システムも非常にシンプルで、乗員のための外との連絡手段はテキストメッセージだけで、船体にはGPSも付けられていません。

タイタン号は乗員5名を収容できるものの、その内部は、乗員が立つことさえ許されない非常に狭い空間です。とても原子力潜水艦を超えるハイテクノロジーがあれこれと積まれているものとは到底思えないのですが、オーシャンゲート社によれば、この「タイタン号」は、NASA、ボーイング社と共同で設計されており、できあがった船体はワシントン大学の応用物理学研究所で高圧評価試験も受けていたということです。

試験の結果だけを見れば、タイタン号は水深3000メートル相当の水圧に耐えることができたとされていました。乗員たちが安心してツアーに参加したのも、オーシャンゲート社が前面に打ち出したこの国家レベルの技術による安全面の保証があったからこそでしょう。ただし実際のところ、このツアーは始まる前から危険に満ちたものだったのです。

オーシャンゲート社の元従業員のDavid Lochridgeは潜水艦操縦士兼検査官でした。タイタン号がエンジニアリング部門からDavidのいる作業部門に引き渡されたあと、彼は船体の詳細な検査を行い、2018年に品質管理レポートを会社の上層部に提出しました。

Davidが指摘したのは、まず、3000メートル以上の潜水を実現するには、炭素繊維は適切な材料ではないという点です。その欠点を補填するために、スキャン方式で船体全体の状態を監視するという警報システムの搭載が設計段階で予定されましたが、オーシャンゲート社は経費節約のために、最終的には音による監視システムを採用しました。つまり、船体にひび割れが入るといった異常が発生した時に、その音を拾うことによって、船体の危険な状態を検知するというシステムです。たしかにこれでも船体に起きる異常を知ることができますが、それを知った時には既に船体は致命的なダメージを受けているわけですから、深海環境ではもはや手遅れであって、乗員に大きなリスクをもたらすとDavidは指摘しました。

オーシャンゲート社はこのレポートを受け取った翌日、すぐさま対応しました。ただし、その対応の内容は、Davidを解雇するという愚かなものだったのです。その後、Davidはタイタン号が最大1300メートルまでの深度しか耐えられないと外部に公開し、海洋技術協会(MTS)もオーシャンゲートに書簡を送り、「タイタン号には大きなリスクが潜んでいる」と警告しました。これに対してオーシャンゲート社が取った対応は、秘密情報を暴露したとしてDavidを提訴するという、何とも彼ららしいやり口でした。最終的に、タイタン号に何の改造も施さないまま、オーシャンゲート社はツアーを始めました。

ツアーの期間は9日間で、港からタイタン号の潜水出発地点まで船で2日かけて向かい、出発地点に到着後、5日間かけてベストな潜水のチャンスを探し、その後2日間で港に戻るという内容です。オーシャンゲートはこのサイクルを2021年から、毎年5回実施しましたが、その中で既に数回に渡って、船体の故障などの原因で中止をしていました。例えば、2021年のあるツアーでは、タイタン号は機械的な問題によって海底で動けなくなり、5名の乗客は海面に到達するまで20時間もタイタン号の中に閉じこめられていました。そして、2023年6月、タイタン号による新しいツアーが始まりましが、これは最悪の悪夢の始まりでもありました。

今回の事故

  • 6月16日、今回の犠牲者となった4名の乗客と、オーシャンゲート社のCEOのStockton Rushの5人は、潜水地点に向かう。
  • 1日の待機を経て、6月18日早朝、潜水の条件が整い、タイタン号は海底3800メートルを目指し始める。

この深さがどの程度のものであるかピンとこないかもしれませんが、例えるならそれは、高さ634メートルを誇るスカイツリーの約6個分の深さです。予定では、水深3800メートルに到達するのに2時間かかる計算でしたが、今回の事故はこの過程で起きていたことが分かっています。

  • 9時28分、タイタン号が「RTMから警告音があった」というメッセージを送信。この時の深さは3433メートル。

このRTMというのは、先ほどお話した、船体にひび割れが入った時に発生する音を検知するシステムです。

  • 9時30分、タイタン号は緊急で上昇を決定。
  • 9時38分、乗員はパチパチという音を聞く。
  • 9時42分、パチパチ音は消えるが、潜水艇の上昇速度は非常に遅く、RTMの警告アラートは全て赤。
  • 9時43分、乗員は上層速度の遅さに困惑。
  • 9時46分、またパチパチ音が鳴り始める。

これがタイタン号からの最後のメッセージとなり、この時の水深3457メートルという深さでした。しかし、通信が途絶えることは以前にもあったからか、スタッフはすぐに救援を要求しませんでした。そして、タイタン号が海面に戻る予定の時刻である16時30分となっても、潜水艇の姿はありませんでした。

  • 19時10分、スタッフはようやくアメリカ沿岸警備隊に捜索活動を要請。そこから、アメリカ海軍とアメリカ沿岸警備隊、さらにカナダ沿岸警備隊による捜索が始まって数時間後、捜索隊のソナーが海中から“たたくような音”を検知。音は継続して30分ごとに鳴っていたが、発生源の特定はできず。

この時、潜水艇が消息を絶ち70時間が経過しており、残りの酸素は24時間分しかありませんでした。

  • 6月22日の午前、酸素がなくなると推定された時間になっても、タイタン号は見つからず。
  • その日の夕方、捜索隊がタイタニック号の残骸から500メートル離れた場所で破片を発見し、後にそれらはタイタン号の船体の一部であると判明。
  • その後アメリカ沿岸警備隊が声明を発表し、5名の乗員が死亡、タイタン号は海底で爆縮した可能性が非常に高いと伝える。

潜水艇の通信記録と船体の状態から、恐らくタイタン号が最後のメッセージを送った直後に爆縮が起きたと推測できます。すなわち、捜索活動が始まる前に、5名の乗員は既に死亡していたのかもしれません。

爆縮

ここで言う「爆縮」とはどういうものであるか説明しますと、全周囲からの圧力で瞬時に内部が押しつぶされる現象を意味します。水中では、深さ10メートル増すごとに、圧力は約1気圧の割合で増加します。3800メートルの深さでは、圧力は約3800万パスカルになります。このような環境では、指先ほどの面積でさえ380キログラムの重量がかかります。つまり、指先の上に二人の力士が乗っているような重圧です。人間の体表面積は約1.9平方メートルであるため、この環境で人間の体は7300トンほどの重量がかかることになります。これは、一般的な家庭用自動車約3500台分の重さです。

タイタン号は、この重圧に耐えることができず、深海の強い圧力で押しつぶされたと予想されます。計算によると、船体は僅か0.03秒のうちに急激に圧縮され潰されました。この瞬間的に内側に向けて爆発するかのように圧縮することを、「爆縮」と言います。ところで、人間の脳が痛みに反応するまでにかかる時間は0.2秒ほどであることをご存じでしょうか。5人の乗員は恐らく痛みさえ感じる間もなく、その命を奪われたのでしょう。6月28日、タイタン号の破片が引き揚げられると、潰れた船体の状態から、事故の原因は爆縮と断定されました。

事故の発生後、ボーイング社とワシントン大学は、オーシャンゲート社のタイタン号の設計や試験にまったく関与していないという声明発表を行いました。そして、NASAの声明によると、たしかにNASAとオーシャンゲート社との間には協定が結ばれていますが、その内容は宇宙法協定であり、潜水艇のタイタン号とはまったく関係がないとのことです。

これらの声明が全て事実なら、タイタン号はオーシャンゲートが自社開発したものであり、国家レベルの製造水準が安全を保障するという話は、乗員を安心させるための嘘であったということになります。

また、タイタン号はそもそも深海潜水に関する資格認定を受けていません。そのようなタイタン号が深海潜水を許された理由は、タイタニック号の残骸が公海にあるため、資格のないタイタン号がそこで深海潜水を行っても、法律的には特に制約されるものではないからです。

事故の後、David Pogueという記者が、以前タイタン号に搭乗した経験を公開しました。Pogueによると、搭乗する前に、まずは免責事項にサインさせられます。それには次のような文言があります。

「タイタン号は、いかなる機関からも承認や認証を受けていない実験的な潜水艇であり、永久的な障害、精神的なトラウマ、あるいは死に至る可能性がある」。

また、タイタン号の覗き窓のついていた耐圧室は、18個のボルトで船体と繋がっていますが、水中に入ったあと、ボルトが17個しか閉じられていないことにPogueは気がつきました。スタッフにそれを確認したところ、「大したことではない」と回答されました。

完全に人為的な原因による今回の事故ですが、事故とともに亡くなったオーシャンゲート社CEOのStockton Rushは、事故が起きるまでは、大胆な革新家とされていました。その正体がまさに客の命を犠牲にして、金を節約するために手を抜く詐欺師だったということは乗客の誰も予想できませんでした。Stocktonは自分の命で自分が今まで行ってきた行動を償ったということになりますが、他の4人の乗客はオーシャンゲート社の過大かつ偽りの宣伝を信じた無関係な人々として、それぞれの人生は不慮の事故によって終わりを告げるという痛ましい結末となりました。

キャメロン監督の言葉

映画『タイタニック』の監督のジェームズ・キャメロンは、ソビエト連邦製の潜水艦で、30回ほどタイタニック号の残骸を訪れたことがあります。この事故に関する取材を受けた時、キャメロン監督は、

「通信が途切れたと最初に発表された際、もう何が起こったのかが分かった」

と話しました。さらに彼は今回の事故に対して次のようにもコメントしています。

「これは非常に大きな、超現実的な皮肉だと思います。タイタニック号が沈没した理由は、多くの警告があったのにもかかわらず、船長が月のない、視界が非常に悪い夜に、船を全速力で氷山が浮かぶ海域に進入させたからです。今回の事故も似たような状況で、オーシャンゲートが数多くの警告を無視したことが、この事故の最大の原因だったと言えます」。

オーシャンゲート社CEOのStocktonの妻は、偶然にも、タイタニック号沈没で亡くなった夫婦の玄孫だということが判明しました。同じ場所で似たような名前の船が似たような事故を起こしたことを指して、これは呪いだと声高に叫ぶ人もいますが、そのような呪いがあるとするなら、それは過剰な自信と金に対する欲望のことでしょう。

それでは、今日もありがとうございました。

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