【多重人格】謎が深すぎる意識と体の関係、人格が肉体の構造を変えてしまう理由とは?

ミステリー

イブの三つの顔

今回の話は、70年前にとある診察室で起きた出来事から始まります。

1952年のある日、アメリカのジョージア州に住むイブという女性が精神科を受診していました。彼女は学生時代から、突如として記憶をなくすという現象に度々見舞われ、苦しんでいました。数時間前の自分が何をしていたのかを忘れたり、前日の授業の内容を思い出せなかったり、それらはどれも日常生活に支障をきたすほどでした。

医者の前でおどおどしながら自分の病状を述べていたイブですが、さらに記憶喪失以外にも、目を覚ますと見覚えのない高価でセクシーな服を身にまとっていたという怪奇現象まで起きたことを、涙ながらに医者に訴えました。しかし次の瞬間、イブは突然言葉を発しなくなり、頭を下げて何かを考え始めた様子を見せます。しばらくして頭を上げたイブは、戸惑った表情で周囲を見渡しながら、先ほどとは全く異なる口調で言いました。「タバコを一本くれ」。自信に満ちた社交的な性格の持ち主のように見えたこの時のイブは、先ほどとはまるで別人でした。

実は、医師はこれまでも何度も彼女を診察をしてきているので、イブの身に起きるこの現象をすでに把握しています。彼は、最初のイブを「イブ・ホワイト」、次のイブを「イブ・ブラック」と名付けていました。つまり、イブの体には2つの人格が存在していると、医者は結論付けていたのです。

その後の治療の過程で、医者はさらにイブの3つ目の人格も発見し、それを「ジェーン」と名付けました。ジェーンはイブ・ホワイトとイブ・ブラックの特徴を部分的に併せ持っており、とても優雅で知的な性格をしていました。見たところ、3人の座り方や振る舞い、好きな服装のスタイルなどは大きく異なっています。これらの現象だけなら演技で偽装することもできますが、医者はイブの状況が演技ではないと確信していました。その理由として、イブ・ブラックはナイロン素材の服を着ると肌がかゆくなったり、かぶれたりして、アレルギーの症状が観察された一方、イブ・ホワイトとジェーンに関しては、このようなアレルギー症状はまったくなかったと客観的に観察されたのです。

その後の調査によると、三つの人格の間には様々な関係性がありました。イブ・ホワイトは自分以外の2人の存在を把握しておらず、イブ・ブラックはイブ・ホワイトのことだけ知っています。そしてジェーンは、全員の存在を知っている上、全員の記憶をも持っていることが明らかになりました。

当時の精神科医業界では非常に珍しかったこのケースは、その医者によって本にまとめられ、後に映画にもなりました。

現在では、医者はこのような症状を「解離性同一性障害」と診断しますが、一般的には、「多重人格」と呼ばれています。皆さんもご存じのように、多重人格という病気は一般的にもある程度認知されていますが、医療や科学が進んだ現代の感覚から見ても非常に不思議な現象に感じられます。今からご紹介するケースは、イブの話よりもさらに不思議で興味深いものです。このケースは多重人格の一つのエピソードというだけでなく、人間の意識と肉体が一体どのように結びついているのか、という深遠な問いを投げかけてきます。

ぜひ、最後までお付き合いくださいね。

ビリー・ミリガン

1977年、アメリカのオハイオ州で、ビリー・ミリガンという22歳の男が強盗容疑で逮捕されました。警察は犯人が非常に危険な人物であると予想していましたが、ビリーを逮捕したとき、彼はいささかも悪意を感じさせない表情をしており、まるで何も知らないという様子で全く抵抗しませんでした。

最初に、警官が捜査のために容疑者であるビリーの部屋に足を踏み入れると、そこには複数の人物が住んでいる痕跡がありました。例えば、未完成の絵や筋トレ道具、化学や生物学、医学の書籍、キッチンは非常にきれいで清潔な状態だった一方、他のほとんどの部屋は散らかって汚れていました。そして、部屋から被害者のクレジットカードなどの犯行の証拠が見つかり、これが逮捕の決め手となりました。

これで一件落着と思われましたが、ビリーを警察署に連行するとき、それは起こりました。手錠をかけられパトカーの後部座席に座ったビリーでしたが、警察署に着くと、その手錠はなぜか外されており、ビリーの膝の上に置かれていたのです。これには、その場に居合わせた警官の誰もが驚愕しました。

この男は一体何者なのか?精神科医による数週間の調査を経て、ビリーの正体が明らかになりました。彼の部屋には複数の人物が住んでいたのではなく、その真相は、ビリーの中に複数の人格が存在しているということでした。これを突き止めた医師たちはビリーの中に存在する人格の数を最初は10人分だと数えていましたが、最終的には人格の数は24にも上ると判明しました。今から、その中でも重要な役割を果たしたいくつかの人格を紹介します。

アーサー

アーサーは24歳のイギリス人です。会話から分かったアーサーの外観ですが、彼は眼鏡をかけた典型的なイギリスの紳士のようです。ビリーは生まれも育ちもアメリカなのに、アーサーの人格が体の制御権を握ると、本場のロンドン訛りが出てきます。会話を続けていると、アーサーは理性的で紳士的であり、頭の回転が非常に早く、物理学、化学、医学などの自然科学に精通していることが判明しました。さらに、アーサーはアラビア語も書くことができ、医師たちはアーサーの高い学習能力に驚かされました。

レイゲン

レイゲンは自称ユーゴスラビア人で、彼はユーゴスラビアの訛りで英語を喋るだけではなく、セルビア語とクロアチア語での読み書きと会話までネイティブのようにやってのけます。レイゲンはたまにジョークを飛ばすのですが、医師たちは誰もその意味が理解できませんでした。しかし、後に調べたところ、それはユーゴスラビア人にしか通じないジョークでした。レイゲンは武器と格闘技に非常に詳しく、これらのスキルは危険な状況に陥った時に「みんな」を守るために習得したそうです。医師たちはビリーのホルモンの分泌量を常に検査していましたが、レイゲンが出てきた時には、ホルモンの分泌量はいつもほかの時より高い数値を示しました。これは恐らくレイゲンが常に「戦闘状態」になっているからだと推測されています。そして同時に、この検査結果は、ビリーが演技によって異なる人格を演出しているという可能性をほぼ排除しました。

アレン

最初のうち、医者はビリーとのコミュニケーションの中で、複数の人格のことをそのまま「人格」と呼んでいました。しかし、ある会話の中で、ビリーが急に「人格という言葉をやめてください。私たちは人間です」と大きな声を上げました。詳しく聞いたところ、これは「アレン」という名の人格が発した言葉でした。アレンは18歳の少年で、優れたコミュニケーション能力と高い芸術的才能を持っています。ビリーの部屋にあった絵は全てアレンが描いたものだそうです。そして、アレンは全ての人格の中で唯一の右利きで、唯一タバコを吸う人格です。

アダラナ

アダラナは19歳の長い黒髪と大きな瞳を持つ美しい少女です。彼女は人間不信で、時に自傷行為を繰り返すこともあります。他の人格と比べると、アダラナは非常に内向的です。一方、彼女はきれい好きで、家事も得意です。ビリーの家のキッチンだけが清潔に保たれていたのは、料理をする時はいつもアダラナが体を制御していたからだと推測されています。

ビリーが逮捕された理由は強盗でしたが、被害者は全員女性でした。被害者たちの話によると、彼は非常にフレンドリーに話しかけてきて、最初はとても良い人だと感じたそうです。しかし、相手の警戒心が薄れてきたところで、突如としてビリーの態度が変わり、攻撃的で危険な行動をとり始めたと言います。

これについて医者がビリーに確認したところ、ビリーが職を失い経済的に困窮すると、レイゲンがみんなを守るために強盗に手を染めることを決断したと言うのです。彼は町でターゲットの女性を見定めると、アダラナを呼び出し、彼女がターゲットに話しかけます。主観的には女性であるアダラナが、巧みにターゲットの警戒心を薄めながら人目のない場所に誘導すると、そこでまたレイゲンが出てきて所持品や金品を奪う、という手法が明らかになりました。

トミー

トミーは16歳の少年で、茶色の髪と琥珀色の目を持っています。彼は「逃走の達人」で、パトカーの中で手錠を外したのはトミーの仕業でした。医師たちは拘束衣をビリーに着用させることがありましたが、次の日の朝にはなんと拘束衣は体から外されて、頭の下で枕代わりになっていました。当然、これもトミーの仕業でした。一体どうしてこんな芸当ができるのかと尋ねると、トミーは関節と靭帯をある程度自由に操ることができるのだと答えました。これは長年の訓練によって体得できる技術ですが、なぜトミーになった時だけこのようなことができるのか、その理由は医師たちも分かりませんでした。

デビッド

デビッドは8歳の子供で、ビリーの体で感じるあらゆるストレスを受け止めるために作られた人格です。何か大きなストレスを感じた時に、デビッドが表に出てきて、全てのストレスを受け入れます。ストレスがなくなれば、デビッドは体の制御権を他の人格に渡し睡眠に入ります。ほとんどの人格は、その間デビッドが受け取ったストレスを知らず、感じることもできません。

クリスティーナ

クリスティーナは3歳の子供で、ほとんど表に出てきません。ただし、レイゲンが誕生したきっかけはクリスティーナでした。ビリーがまだ子供の頃、クリスティーナが体を制御して木からリンゴを取ろうとしていました。しかし、クリスティーナはどう頑張ってもリンゴに手が届かず泣き始めました。すると、「なぜ泣いているの?」という男の声が聞こえて、振り向くとそこにはレイゲンがいました。これが、レイゲンが初めて現れた瞬間でした。

ビリー

ビリーはこの体のもともとの人格です。彼は16歳の時に、ビルから飛び降りて命を絶とうとしました。しかし、飛び降りる瞬間に、レイゲンが体の制御権を奪い、ビリーの命を救いました。その後、アーサーはビリーのこのような行動の危険性を認識し、ビリーを眠らせることにしました。それから7年の間、ビリーはずっと眠っていたのです。

強盗行為で逮捕された後、医師たちはアーサーと交渉し、何とかビリーを起こすことができました。目覚めた時に彼が発した最初の一言は、「私は生きているのか?死んでいるのか?」でした。それも当然のことで、ビルの上で今にも飛び降りようとしていたというのがビリーの最後の記憶なのですから、その次の瞬間、全く知らない場所で突然成人の姿をしている自分自身に、彼は大きなショックを受けました。医師たちは時間をかけてビリーに事情を話しましたが、なかなか現実を受け入れられないビリーは何度も壁に頭を打ち付けてまた命を絶とうとしました。そのため、アーサーは再びビリーを眠りに入らせました。このように、複数の人格がどうやってビリーの体を制御しているのかという点では、アーサーが一番重要な役割を果たしているため、ここでさらに詳しくアーサーという人格についてお話ししたいと思います。

ビリーが学生の時、数学のテストが難しすぎて困っていると、アーサーが突如として現れ、ビリーの代わりに答えを全部書いたという出来事が、彼が初めて誕生した瞬間でした。テスト用紙の筆跡はその前後でがらりと変わり、ビリーの本来の筆跡と異なる部分は全部正解だったという事実を発見した教師は、ビリーが何らかの不正をしたと考え、その後のテストでも彼を観察し、彼の周りを注意深く調べましたが、実際に不正をしていたという痕跡は全くありませんでした。

すなわち、初めて出現した時点で、アーサーは既に高度な知識を持っていたのです。これも医者たちを大いに悩ませました。これらはビリーが無意識のうちに習得したものなのか?我々一般人も実は無意識のうちに様々な知識を脳のどこかに溜めているのか?そして、アーサーに関する調査を進める中で、とある出来事でアーサーは全ての人格の支配者となったことが判明しました。

アーサーによると、ビリーの中に存在する複数の人格は部屋のような空間の中にいます。部屋には1つのスポットライトがあり、その光の下に立つと、ビリーの体をコントロールできるようになります。そして、その間のビリーの記憶もその人格しか持ちません。最初のうち、ほかの人格の存在を知らなかったアーサーは時々記憶がなくなることに違和感を覚え、独自に調査していくうちに、徐々にほかの人格の存在に気が付きました。彼はこのことをみんなにシェアし、やっと全員が事実を知るようになると、お互いコミュニケーションを取ることまでできるようになりました。人格の間のコミュニケーションは、思考を交換するという形で行われています。

その時、ビリーの体は頭を下げて何かを考え込んでいるように見えます。人格を切り替える時は、急速な眼球運動が見られます。これは本来人間が夢を見ている時に観察される現象であり、意識の深層部で何かが起きていることを示唆しています。

みんなに真実を教えたことで、アーサーはリーダー的な立場になり、どの人格を表に出すか、どの人格を封印するかを決定する能力を持つようになりました。もともとの人格であるビリーを長い眠りに入らせたのもアーサーの決定で、その他、アーサーの気に入らない人格も彼によって封印されていました。

医師たちの調査によると、アーサーの封印によってあまり表に出てこない人格は10人以上もいました。例えば、20歳のフィリップは詐欺師であり、ブルックリン訛りが強く、口がとても悪いようです。フィリップも一部犯罪行為に関与しており、逮捕後に自分たちのルールを破り多重人格の秘密を外部に漏らしたため、それを不快に思ったアーサーに封印されました。ほかにも、20歳のケビンは文書を書くことが得意で、22歳のウォールターはオーストラリア人で、狩猟の専門家。19歳のエイプリルはボストン訛りの女性で、裁縫が得意で、たまに家事も手伝います。18歳のサムエルはユダヤ人で、ユダヤの聖典を暗唱できる唯一の人格です。みんなに“ゾンビ”と呼ばれる16歳のマークは仕事人間で、煩雑な単純作業をする時の人格はいつもマークに切り替わります。そして、生まれつき聴覚障害を持つ4歳のショーンは、ビリーが初めて誕生させた人格でした。ビリーが4歳の時、花瓶を割って母親に叱られていた最中にショーンが現れて、ビリーの代わりに叱られていたそうです。

ビリーの数々の人格はそれぞれ異なる振る舞い、記憶、スキルを持ち、自意識も独立していました。さらに、ビリーが多重人格であると診断されたのはビリー本人の主張に基づくものではなく、精神科医たちによる長期に渡る観察と評価によるものです。彼の異なる人格が体を制御している時のビリーの行動、訛り、反応、そして表情の変化などは、決して演技で再現できるものではありません。

これらの事実をもとに、ビリーは最終的に無罪と判決され、病院で治療を受け始めました。治療はビリーの数多くの人格を消すのではなく、これらの人格を1つに統一することが目標でした。治療は10年もかかりましたが、その途中で、ビリーにはもう1つの新たな人格が誕生しました。この人格は名前がなく、自らを「先生」と名乗っています。

先生はほかの23人の人格の記憶を全て持っており、ビリーが1歳の頃の出来事までも覚えています。先生によると、ビリーは生まれてからずっと親のネグレクトを受けており、その辛い現実から逃れるために、たくさんの別人格を形成させたとのことです。治療を受けてから、先生はアーサーに代わってリーダー的な存在となり、ビリーはやっと1つのまとまった人格を持つようになりました。

これで治療の目標が達成され、ビリーは一般社会に戻ることができました。2009年、54歳になったビリーはインタビューを受けました。インタビューの内容から、全ての人格はまだビリーの中に存在していることが分かりました。ビリーによると、先生が常にほかの人格をスポットライトの光の下に入らせないように努力していることが、彼が1つの人格を維持できている理由だそうです。ただし、他の人格をコントロールするのは非常に難しく、先生は毎日かなりの苦労をしているそうです。ビリーは57歳で亡くなりましたが、彼の人生が世の中に広く知られ、多重人格という病気の存在をより多くの人が認知するに至りました。しかし、この病気についてはまだ解明されていない部分が多くあり、ビリーの症状は意識と体の関係についての理解を深めるためのケーススタディともなっています。

人格が肉体の構造を変えてしまう

1996年、心理学者のボーン教授はビリーのケースを研究していた時に、1つの細かな点に気づきました。それは、アーサーという人格に切り替わると、彼は必ず眼鏡をかけるという点です。ビリーを治療していた医師たちは、それはただの人格の設定と考えましたが、ボーン教授は、アーサーは本当に近視だったのではないかと推測しました。

教授の研究によると、一部の多重人格の患者が人格を切り替えた際、近視になることがあるそうです。彼らの目を検査したところ、「毛様体筋」という筋肉が収縮したことが分かりました。毛様体筋は「水晶体」という組織を調節してピントを合わせる筋肉です。人格が切り替わると、目にある筋肉までもその状態が変わるという結果は、意識が肉体に与える影響が我々の予想以上であることを示唆しています。

また、アメリカのシカゴにあるルーク医療センターも似たようなケースを報告しています。多重人格を持つとある女性は糖尿病で入院しましたが、ほかの人格に切り替わった時だけ、血糖値の数値が正常水準に下がります。そこで精密検査を行ったところ、患者のインスリン分泌に関しては生理学的な異常が確認できませんでした。しかし、糖尿病で入院したという人格に変わるやいなや、体はそこからインスリンを分泌しなくなり、血糖値が一気に高まります。これはつまり、患者の血糖値の変化は、インスリン分泌の生理学的な問題ではなく、その人格の変化に直結している可能性が高いことを示しています。

意識と体の関係

このように、人間の脳と意識の謎は非常に奥深いです。ビリーの数多くの人格は、一体どのようにして複数の訛った口調や外国語、多くの異なる専門知識やスキルをマスターしたのか。なぜ人格が変わると、体の一部の機能までも変わっていくのか。これらについてはまだまだ研究の途上ですが、いずれ、意識が現実を変えうる1つの証拠としてこの謎が解き明かされる日が来るのでしょうか。

それでは、今日もありがとうございました。

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