今回のお話はこちらの映像から始まります。
黒いマントを身にまとった数名の人が、ひとりの女性を囲んで、何らかの儀式を行っているようです。よく見てみると、彼らの目の前にある像は、インド・ヒンドゥー教で最も影響力を持つ主神の1人である「破壊神」のシヴァ神です。何らかの怪しい宗教による供犠としか思えないこちらの映像は、なんと、最先端の物理学研究所であるCERN(セルン)の敷地内で起きていたことです。後に判明した話によると、これはCERNを見学した大学生たちによるいたずらでした。
ただし、彼らのこのような行動の理由は、CERNの敷地内に設置されているシヴァ神の像と、CERNが公式に発表したこちらのトレーラー映像にあります。映像に見られる、エンジニアたちの不気味なダンスの姿は、破壊神シヴァによる世界を蹂躙する踊り、「破壊の舞踏」を象徴していると言われ、当時は話題になっていました。
最先端の物理学研究所であるCERNが、なぜ科学と真反対に位置するような神話や宗教と関連付けられているのでしょうか?2つの顔を持つと言われているCERNの真の目的は、果たして本当に宇宙の真相の解明なのか?それとも陰謀論が語るように、世界の破滅こそが真の狙いなのか?今回は、都市伝説的な噂が多く囁かれるCERNの真相に迫っていきたいと思います。ぜひ最後までお付き合いくださいね。
CERN:欧州原子核研究機構
CERN、「欧州原子核研究機構(European Organization for Nuclear Research)」は、1954年に設立された、フランスとスイスの国境に拠点を置く世界最大の研究所の1つです。この組織は治外法権を持っており、国家の法律の制約を受けません。機構の主な使命は、物質の基本的な構成要素である素粒子や、宇宙とその起源に関する様々な謎を解明することです。CERNはヨーロッパの21か国にイスラエルを加えた22か国によって運営されており、ここで働いている研究者たちのIQの平均値は160もあるという噂もあるほど、トップ中のトップが集まっています。
CERNが世の中に広く知られるようになったきっかけは、彼らが持つ世界最大かつ最強の粒子加速器のLHCです。2008年、20年以上の歳月を経て、総額75億ユーロの費用が投じられ、世界中の100を超える国々と研究機関の連携によって、やっとLHCの建設という壮大なプロジェクトが完成しました。これは、人類がこれまでに建設した中で最も複雑で高額な投資がなされた科学施設であり、地下100メートル、全周27kmのトンネルの中に建設されたという情報からも、その規格外のスケールが分かります。
山手線とほぼ同レベルの規模感を持つLHCは、2つの陽子ビームを光速の99.99%にまで加速させてから、それらを衝突させます。このように非常に高エネルギーでの強烈な衝突を人工的に再現することによって、ビッグバンが起きた直後の宇宙環境の研究や、基本粒子の性質に関する研究に貴重なデータと手がかりを研究者たちに提供しています。
「神の粒子」とも呼ばれているヒッグス粒子は、LHCの衝突実験によって発見されました。
ただし、設備を整えただけでは、このような実験は簡単に実現できるものではありません。大規模な設備に加えて、陽子ビームを光速に近い速度にまで加速するためには、莫大なエネルギーも必要です。一回の衝突実験で、およそ7000世帯分の1時間の消費電力が必要です。LHCの完成後に行われた最初の衝突実験は、周辺地域に大規模な停電をもたらし、住民たちに大きな不安を与えたほどでした。そして、LHCがもたらした不安要素は現地の住民だけにとどまらず、この地球全体をも危険に晒していると言われています。
LHC:実験への警鐘
最初に注意喚起を行ったのは核物理学者のフランチェスコ・カロジェロによるこちらの論文です。
論文のテーマは、「実験室での実験が、地球を破壊してしまうことはあり得るのか?」です。この「実験室での実験」というのは、LHCによる粒子の衝突実験のことです。カロジェロによると、CERNのLHCには3つのリスクが潜んでいます。
「ブラックホールの形成」、「真空状態への遷移」、そして「ストレンジ物質」の形成です。
ブラックホールの形成
この3つはどれも地球を破壊できるほどの現象です。今から1つずつ見ていきましょう。まずは「ブラックホールの形成」についてですが、論文によると、LHCで行われる衝突イオンのエネルギー密度が十分に高い場合、非常に強い重力によって、そこから何も逃げられない時空領域が作られる可能性があるとされています。この領域は「重力特異点」とも呼ばれており、ブラックホールの中心でもあります。
もしこのような事態が起きてしまうと、形成された「重力特異点」の周囲の物質から始まり、果ては地球全体までが、このブラックホールに「落ち込む」ことになります。言うまでもなく、人類を含む全ての命もそこで最期を迎えます。
実験室でブラックホールを形成させることに関して、現段階では意図的に作ろうと思っても実現するだけの能力はないと、論文は補足しています。つまり、LHCによる衝突実験でブラックホールが生まれる確率は非常に低いということです。さらに、仮にブラックホールが実験で誕生したとしても、その規模は極めて小さいため、一瞬の間に蒸発し消えてしまいます。CERNも自身のホームページで、LHCで地球を破壊できるほどのブラックホールが誕生する確率はほぼないと主張しています。ただし、それでも多くの科学者たちはLHCの潜在的なリスクを重要視しなければならないというのが現状です。
真空状態への遷移
論文が言及した2つ目の懸念点は、「真空状態への遷移」です。カロジェロの主張によれば、衝突実験は“真の真空状態”を引き起こす可能性があります。宇宙空間が真空状態であるのは、皆さんもご存じだと思います。しかし、そのような“宇宙の真空状態”というのは、実は“偽りの真空状態”なのです。すなわち、地球環境と比べれば、宇宙空間には物質もエネルギーもゼロと見て問題ないのだという発想で“真空状態”と言っているわけですが、実際のところ、宇宙空間には僅かな物質とエネルギーが存在しています。
これに対し、“真の真空状態”というのは、物質もエネルギー状態も完全にゼロという状態であり、理論上、地球を破壊してしまうものだとされています。LHCによる衝突実験は、このような状態を作り出す可能性があるというのです。
では、“真の真空状態”はなぜ地球を破壊してしまうのでしょうか?宇宙の1つの性質として、エネルギーは常に高い状態から低い状態へ移ろうとします。もしエネルギー0の“真の真空状態”ができてしまうと、周囲のエネルギーは“真の真空状態”に向かって流れ込んでいきます。そして、さらに広い範囲にあるエネルギーも連鎖して移動を始めます。このような連鎖反応が起きると、具体的にどのような現象が起きるのかはまだはっきりと分かっていませんが、1つ確実に言えるのは、物質は元の姿を維持することができなくなり、崩壊していくということです。しかも、連鎖反応は光速で広がっていくと推測されているため、もし“真の真空状態”が地球上でできてしまうと、地球と地球にある全ての物質は一瞬で崩壊してしまいます。
ブラックホールよりも恐ろしい“真の真空状態”の誕生については、あのスティーブン・ホーキング博士も論文と同じ主張をしています。彼は生前、BBCのインタビューの中で次のように述べていました。
このような実験で引き起こされるかもしれない“真の真空状態”は、地球どころか、宇宙にとっても破滅的な出来事となります。
ただし、これに関しても、心配する必要はまったくないとCERNが主張しており、どちらが真実なのかは判然としません。
ストレンジ物質の形成
そして、論文が主張する3つ目のリスクは、ストレンジ物質の形成です。ストレンジ物質というのは、クォークだけでできた特殊な物質です。この物質は中性子星の内部にしか存在していないと考えられていますが、LHCによる衝突実験は、地球でストレンジ物質を作ってしまう可能性があるとカロジェロは主張しています。
ストレンジ物質が一旦地球で誕生すると、それに触れた普通の物質もストレンジ物質に変化すると推測されています。つまり、“真の真空状態”の時と似たような連鎖反応が引き起こされます。ただし、この時の連鎖反応は、物質の変化、すなわち、普通の物質が全てストレンジ物質に変化していくという連鎖反応です。地球及び地球に存在している全ての物質がストレンジ物質に変われば、あらゆるものの本来の形は失われ、全ての破滅を意味します。もちろんこれに関しても、CERNは心配することはないと主張しています。
CERNにまつわる宗教的な噂や都市伝説
ここまでは科学の視点から、なぜCERNの研究が世界の崩壊に繋がるのかという議論をお話してきました。次は論文や研究者たちの視点から一旦離れて、CERNにまつわる様々な宗教的な噂や都市伝説などに焦点を当てて見ていきましょう。
破壊神シヴァ
まずは、誰もが気になるCERNの敷地内にあるシヴァ神から深掘りしていきましょう。ヨーロッパを拠点にしており、参加している国もイスラエル以外は全てヨーロッパの国であるCERNが、なぜかその敷地内にインドのヒンドゥー教に登場する破壊神シヴァの像を置いています。これはどう考えても違和感しかありません。
ヒンドゥー教の神話には、破壊者のシヴァ、創造者のブラフマーと維持者のヴィシュヌという三柱の主神が存在しています。ヒンドゥー教の世界観は、三体の神々がそれぞれに持つ力をベースにできあがっているほど、彼らは最も重要な存在です。シヴァが現在の世界を破壊し尽くすことで、ブラフマーとヴィシュヌの力によって次なる世界を創造・維持することができるようになります。そのため、シヴァは破壊神でありながら、再生の神でもあります。
世界の破壊が必要になった時、シヴァは「ターンダヴァ」という破壊の舞踏を舞い始めます。CERNの敷地に置いてある像を含め、多くのシヴァ神の像のポーズは、この「ターンダヴァ」を象徴しています。冒頭部分で紹介したCERNの公式のトレーラー映像には、
「彼は宇宙の舞踏を発見する(He discovers a dance of the cosmos)」
という文言がありますが、この文言にある「彼」と「舞踏」、そして映像の中でエンジニアたちがダンスする姿は、シヴァ神のことを指しています。さらに興味深いことに、映像の終わりにはこのような文言が示されました。
「CERNのLHC内で行われるダンス・オペラ(A dance-opera film inside CERN the Large Hadron Collider)」
これに関しては「破壊の舞踏はLHCの中で行われており、シヴァ神の力はLHCが持っている」と解釈する見方もあります。これらの内容は全てが過剰解釈だと言われたらそれまでですが、都市伝説としての魅力は否定できません。一部の人は、このダンス・オペラが暗示しているのは、世界の破壊を招く何らかの秘密の計画であり、CERNはその中心にあると主張しています。そして、この計画が実行されている1つの証拠として、私たち誰もが一度は経験したことのある「マンデラ・エフェクト」が挙げられています。
マンデラ・エフェクト
マンデラ・エフェクトとは、多くの人々の記憶にある出来事や事実が現実とは異なっている現象を指します。この言葉は、南アフリカの元大統領ネルソン・マンデラに関する誤った記憶に由来しています。
2013年にマンデラ元大統領が亡くなったというニュースが世界中に広がった時、様々な国の多くの人々が、「彼は大昔に既に亡くなっているのではないか?」と口々に声を上げたのです。しかもこれらの人々が持つ記憶は、マンデラ大統領は1980年に獄中で亡くなったというまったく同じ内容の記憶でした。それ以降、このような現象は「マンデラ・エフェクト」として知られるようになり、似たようなことは、映画や書籍のタイトル、企業のロゴ、歴史的な出来事など、様々な分野で見られています。
例えば、有名なブロンズ像の「考える人」の手が置かれている場所は、多くの人の記憶の中では額だったはずなのに、今、「考える人」を検索して出て来る画像は、どれも手の位置は額ではなく、顎です。
また、以前は、レオナルド・ダ・ヴィンチによるモナ・リザの表情はほぼ無表情であるというイメージを多くの人が持っていました。さらに、その顔が微笑んでいるかどうかについても、どちらかに断言するのは微妙なラインにあると見られていたから、この表情は「謎の微笑み」とも言われています。しかし、現在ルーブル美術館にあるモナ・リザを見てみると、なんと誰が見ても完全に微笑んでいます。
さらに、「地図上にあるオーストラリアの位置は、昔は現在よりずいぶん南の位置にある」、「ピカチュウの尻尾の先端部分の色が黒だったのに対して、現在は全て黄色になっている」など、記憶と現実がずれているケースは数多くあります。「マンデラ・エフェクト」は人間の記憶の不完全さや誤りやすさが原因であると解釈されるのが一般的ですが、パラレルワールド、すなわち並行世界による干渉が原因ではないかという解釈も存在しています。そして、この干渉を起こしたのは、CERNが実施しているLHCの素粒子衝突実験と言われています。
並行世界
「多世界解釈」もしくは「多世界理論」によると、この世界には実は無数の並行世界が存在しており、それぞれが異なる可能性を持っているとされています。例えば、コインを投げると、表か裏のどちらかが出ます。しかし、多世界解釈によれば、私たちがコインを投げたら、両方の結果が別々の並行世界として生まれます。つまり、表が出る世界と裏が出る世界の2つの世界に分岐し、それぞれが別々の未来を歩んでいくのです。
このように、大まかなところはほとんど同じでありながら、細かい部分で異なる近しい世界どうしを見比べると、ある世界においては、マンデラ大統領は1980年に獄中で亡くなっていて、別の世界では、マンデラ大統領は2013年まで生きていたというわけです。SF映画のようにも聞こえるこの考え方ですが、実は「多世界解釈」を提唱したのは理論物理学者でした。もちろん現在では、これは仮説としか捉えられていませんが、マンデラ・エフェクトが起きている理由はここにあるのではないかという意見も少なくありません。
本来、これらの並行世界は平行線のように存在しており、お互い干渉し合うことはありません。しかし、CERNが近年実施していたLHCによる素粒子衝突実験が状況を変えました。先ほどお話した通り、実験はブラックホールを作り出す可能性があります。今までの実験でブラックホールらしきものが観測されていない理由は、CERN自身が言っているように、仮にブラックホールができたとしても、その規模が非常に小さいため、一瞬の間で蒸発してしまうからです。ただし、いくら短くても、その“一瞬”が他の並行世界に影響を与えてしまう可能性があります。
どういうことかと言うと、ブラックホールはとてつもなく強い重力を持っています。そして、重力は異なる次元にも届くと考えられています。ですので、我々の世界で行われた素粒子衝突実験から放たれた重力は、別の次元に存在する並行世界にも届きます。逆もしかりで、別の並行世界で行われた素粒子実験が放った重力も、私たちの世界に届きます。たった2つの並行世界だけなら、このような干渉は世界線に影響を与えるレベルには達しませんが、多世界解釈の理屈では、並行世界は無数に存在しています。当然、私たちの世界で素粒子衝突実験が行われているのと同じように、同じ実験を行っている並行世界も無数に存在すると考えられます。したがって、多くの並行世界の間で人為的に作られた重力が飛び交うことによって、お互いの世界線に影響を与えるほどのレベルにまで達する可能性があると言うのです。
その結果、異なる世界線のほんの一部が重なることで、人々が自分の世界線の本来の歴史を記憶として覚えているのに対し、異なる世界線の出来事が自分の世界線の新しい事実として上書きされてしまうことで、マンデラ・エフェクトが起きていると解釈されています。もちろん、この主張は単なる仮説、あるいは憶測に過ぎないものかもしれません。しかし、もしこれが真実なら、LHCはまさに“神の力”を持っていると言えるでしょう。
CERNの資金源
CERNがこのような“神の力”を手に入れることができる理由の1つは、莫大な資金とあらゆるリソースに恵まれているからです。そして、CERNは予算の承認や活動の監査などに特に厳格なプロセスが求められています。資金提供国や関連する国際機関は、CERNの予算が適切に使用されているかについて、常に厳しく監査と評価を行っています。しかし、全ての予算の源となる資金源については、逆に注目されることが少なく、それに関する噂も時々流されています。
通常、CERNの資金源は加盟国からの拠出金や助成金、寄付などがメインですが、噂というのは、資金の出元が公開されていない出資者も存在しているということです。それが一体誰なのかを追求する際によく語られているのは、CERNのロゴです。このロゴをよく見てみると、3つの「6」でできていると捉えることもできます。西洋文化において、「666」は悪魔のシンボルや邪悪な力を表す象徴として使われることがあります。また、この数字はイルミナティという秘密結社ともよくリンクされていることから、CERNはイルミナティからも資金提供を受けているのではないかとも言われています。CERNの研究成果には一部未公開のものもありますが、それらは表に公開されていない出資者のための研究ではないかと噂されています。
もちろん、これらの噂はあくまで噂に過ぎませんから、都市伝説として楽しむ程度にとどめることをおすすめします。CERNは素粒子物理学や宇宙論の研究で世界をリードする研究機関であり、彼らの研究は人類の知識を大きく前進させています。その研究内容が非常に高度で理解しにくいのも、都市伝説が生まれる原因となっているのかもしれません。
未知の領域に踏み込む研究は、人々の想像力を刺激し、驚くべき発見や変革をもたらしてくれる一方で、恐怖や不安を引き起こすこともあります。CERNはそのような存在の最たるものと言えるでしょう。世の中で語られる様々な都市伝説は、人々に未知と科学に対する関心や好奇心を引き起こすというポジティブな影響もあります。CERNに関する都市伝説をきっかけに、物理学に興味を持ち、宇宙の謎を解明したいと思うようになる人が1人でもいれば、この投稿の目的は達成されたと言えるでしょう。
それでは今日もありがとうございました。
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