地球外生命体
現代文明が花開いてからというもの、私たち人類は百年近く地球外生命体の存在を探索してきましたが、結局、未だに何も発見していません。その理由の1つは、私たちがいつも地球生命の形を基準にして宇宙生命を探しているからです。しかし、宇宙のどこかに存在しているかもしれない生命体は、私たちから見て生命体として認識できないほど我々と異なっているという可能性も考慮すべきです。
今までの探索では、2つのポイントを基準としていました。1つは、「成長、繁殖、刺激への反応、進化」という、生命体が持つ共通点。もう1つは、その星の環境が「炭素生命体」にとって誕生・存在に適するかどうか、という点です。1つ目のポイントはイメージしやすいと思いますが、2つ目のポイントについては少し補足が必要かもしれません。
地球上の生物は全て、「炭素」という化学元素を基盤とした複雑な分子で構成されています。このような生物は、「炭素生命体」と呼ばれています。人類は宇宙生命を探索する時、地球以外の生命体も全て「炭素生命体」である、ということも前提にしていました。
ただし最近では、この2つ目の基準を外すべきではないかという声が多く出てきています。これを根本的に言い換えると、地球外生命体を探す時、我々は何を探すべきなのかをあらためて定義し直す必要があるということです。その根拠とされるのは、炭素以外に、「シリコン」という元素も生命体を構成できると考えられているからです。そのような生命体は、「シリコン生命体」と呼ばれています。
推測によれば、シリコン生命体は炭素生命体の私たちよりあらゆる面で優れており、それらの生命体が築き上げる文明も高度に発達しているはずだと見られています。しかし、突然シリコンと言われても、まったく想像ができませんよね。シリコン生命体はどのような見た目をしていて、どんな環境で生きているのか?彼らは私たちとどう違うのか?なぜ彼らの文明は地球文明より発達していると推測されるのか?今回は、シリコン生命体についてお話していきたいと思います。ぜひ最後までお付き合いくださいね。
炭素生命体
まずはそもそも、現在知られている元素は118種類もあるのに、なぜ地球上には炭素ベースの生物しかないのかという疑問を解決しておきましょう。
「炭素生命体」は、その体を構成するあらゆる基本単位が炭素をベースにできています。例えば、遺伝物質のDNAとRNAを始め、アミノ酸、タンパク質、糖質、脂質などの基本単位も、それらからできた骨、臓器、皮膚、髪の毛も、全て炭素がベースです。これはただの偶然ではなく、いくつかの理由があります。
まず、炭素原子は4つの結合を形成します。すなわち、炭素は4本の“手”を持っており、隣にいる他の元素と“手”を握り合うことによって、安定した複雑な構造を持つ大きい分子を形成することができます。これらの多様性のある分子が数多く集まって構成される様々な体の基本単位が、生命現象に必要なあらゆる機能を発揮してくれているのです。
もう1つの重要なポイントとして、炭素をベースにできたこれらの分子が、他の化学物質と結合しやすいという点も確認しておきましょう。結合によって生じた化学反応が迅速に行われることで、生物のあらゆる活動にエネルギーを供給することができます。これは生命体にとっては非常に役に立つポイントです。
以上の話から結論付けられるのは、生命体を構築する基礎的な単位として、炭素は「安定性」と「反応性」のバランスが取れた非常に優れた元素であるということです。では、このような元素はほかにもあるのでしょうか?
研究者たちが周期表の中でそれを探した結果、炭素と同じ族にあるシリコンが浮かび上がりました。シリコンは炭素と同じく4本の“手”を持っており、鎖状や環状構造を持つ多様性のある複雑な分子を構成できる上、化学反応も起こしやすいです。これらの特徴から、生命体を構成するという目的において、シリコンは炭素と同じく理想的な元素と言えそうです。
ただし、仮にシリコン生命体がこの宇宙のどこかに実在しているとしても、彼らは地球で誕生・存在することはできません。なぜなら、地球環境はシリコンベースの生命体にとっては地獄と変わらないからです。まず、ほとんどのシリコンベースの化合物は水と反応します。すなわち、シリコン生命体は地球で雨に濡れたり、川などに落ちたりすると、その体はあっという間に溶けてしまいます。
次に、シリコンは酸素と非常に反応しやすく、その反応の生成物として、砂の主成分である二酸化ケイ素を生成します。砂は、人為的に特別な手を加えなければ、自然界の中ではずっとそのままの形として存在し続け、シリコンに戻ることはありません。ですので地球におけるシリコンは、生命体を構成する余地なく、酸素と反応して砂になってしまっているのです。これが、シリコン生命体が地球で誕生・存在できない理由です。
この事実を前提に、シリコン生命体の存在はあり得ないという結論を出す人もいますが、それも少し乱暴です。実は、シリコン生命体にとって“地獄”であるこの地球においても、“半シリコン生命体”が存在しているのです。それは、「珪藻」という生き物です。
シリコン生命体
珪藻は、主に淡水や海水などの水中に生息している微生物です。画像を見ていただくと分かる通り、彼らは非常に美しく複雑なパターンを持っています。このような六角形や四角形、放射状などの形をしている生物は、地球上には珪藻しかいません。なぜこんなにも特殊な形をしているのかというと、珪藻の細胞壁がシリコンベースの化合物であるケイ酸(シリカ)で出来ているからです。
ただし、珪藻の細胞内にあるものは他の地球生物と同じく、全て炭素ベースでできています。ですので、珪藻はシリコン生命体ではなく、強いて言えば“半シリコン生命体”となるのです。ただし、この生物の存在はシリコン生命体が実在するという可能性を一気に高めました。シリコン生命体にとって“地獄”であるこの地球においても“半シリコン生命体”が生きているのですから、宇宙のどこかに完璧な生存条件が揃った星さえあれば、そこでシリコン生命体が存在していることは十分に現実的な話となります。それでは今から、どのような環境であればシリコン生命体が誕生可能なのか、そのようなシリコン生命体はどんな外見で、どのように生きているのかを考えてみましょう。
半シリコン生命体
まず、シリコン生命体はどのような環境を好むのかについてですが、先ほどもお話したように、酸素と水がシリコン生命体にとって大敵であるという点に着目しなければなりません。第一の前提として、まずは酸素と水がない環境が理想的です。そのような環境では、シリコン生命体は窒素や気体の硫黄を呼吸に使用している可能性が考えられます。
そして、水の代わりに、シリコン生命体は液体のエタンやメタンを化学反応の溶媒として使用しているのかもしれません。ただし、高温の環境においてもエタンやメタンが液体状態を保つためには、地球よりずいぶん高い大気圧が必要となります。このような、酸素も水もなく、気温は数百度もあり、大気圧も非常に高いという、人類にとって地獄のような環境は、シリコン生命体にとっては快適な楽園です。
次は、このような環境に生きている彼らの外見を推測してみましょう。「シリコン生命体」を取り上げているほかの話では、“生きている石”や“動く水晶”というイメージがよく登場しますが、その見立ては間違ったバイアスによるものかもしれません。なぜなら、炭素生命体の私たちが、炭素原子単体でできているダイヤモンドや黒鉛とまったく異なる複雑な形をしているのに、シリコン生命体だけがそのような単純な体になるとは考えにくいからです。ですので、ここでは我々自身の状況を参考にして彼らの外見をより徹底的に推測してみようと思います。
シリコン生命体の生態
外見という要素は、ある時点においてその生命体が進化のどの段階にいるのかにもよりますが、高度なシリコン生命体は、人類よりも複雑な構造を持っている可能性が大いにあります。その体は、シリコン、ケイ酸塩、あるいは結晶質シリコン構造などの耐熱化合物で構成されており、数百度の高温においても安定していられます。まだ進化途中の種なら、環境の危険から身を守るために、非常に硬い鱗、鋭い棘などの保護構造を持っていることも考えられます。
そして、高気圧の環境に耐えるために、彼らはよりコンパクトで頑丈な体構造を持っており、短くて太く、そして厚く強化された骨格構造を持ちます。彼らの感覚器官についても、我々人類と大きく異なります。例えば、高圧環境に適応するために、シリコン生命体は気圧の変化を感知する器官を持っています。これにより、彼らは環境の変化に素早く対応できます。
また、温度の変化にも対応するために、彼らは赤外線や熱を検出するための視力もしくは感受性の高い皮膚を持っています。呼吸器官に関しては、高温と高圧の環境で生きるために、地球生物にある鰓や気管とはまったく異なる構造が見られます。
エネルギーを得る手法については、地球生物のように、食物連鎖が存在し、捕食者と被食者の関係によって生態系が成立している可能性ももちろん考えられますが、それと全く異なり、全ての種が化学栄養によってエネルギーを獲得しているという生態系の在り方も想定できます。
シリコン生命体の体細胞の代謝は炭素生命体より遅く、それゆえに彼らの細胞の劣化も遅くなり、寿命が非常に長い可能性があります。ただしその代わりに、成長も非常に緩やかで、成体になるまでは長い期間を必要とします。もし彼らが進化の過程で高度な知性を獲得したなら、長寿のシリコン生命体は、生きている間に膨大な知識と経験を蓄積することができます。これにより、彼らは炭素生命体の我々より高度な文明を構築するポテンシャルに恵まれているはずです。
さらに、シリコン生命体は性質上、放射線に対する耐性も非常に強いです。すなわち、彼らは宇宙飛行や宇宙移民にも適した体を持っているということです。
ご覧のように、もしこれらのイメージのようなシリコン生命体が本当に存在しているのであれば、今まで私たちが生命体の誕生が不可能だと思って見逃していた星にも、生命体が存在しているのかもしれません。そうであれば、宇宙の様々なところに生命体が存在した痕跡が残されているはずです。しかし実際のところ、私たちは100年近くも宇宙探索を続けていながら、何1つ見つけることができていません。
その原因はやはり、地球の炭素生命体のメカニズムをベースとした探索に留まっているからです。このような考え方こそが、私たちが未だに宇宙生命を見つけることができていない原因の1つだと僕は思います。「地球外生命体は必ず地球生命と似たような形で存在している」という前提条件、もしくは“縛り”とも言えるロックを頭にかけて宇宙生命を探すと、どうしても可能性の幅は狭くなってしまいます。以前取り扱ったことのある「フェルミのパラドックス」も、この矛盾を突き止めたものです。
イーロンマスクの発言
フェルミのパラドックスは天才物理学者のエンリコ・フェルミによって提唱されたものです。どう考えても宇宙には生命体や文明があっちこっちに存在するはずなのに、未だに1つも見つかっていない、という矛盾がこの説の簡単な内容です。この矛盾を合理的に説明しようと試みるたくさんの説がありますが、そのうちの1つとして、私たちは自分と異なる形の生命体を感知できないという説があります。ここで言う“異なる形”というのは、炭素生命体とシリコン生命体の違い以上に異なっているということを意味します。具体的にどう異なっているのかを理解する手がかりとして、まずは、イーロンマスクによる“シリコン生命体”についての意味深な発言を聞いていただきたいと思います。
I mean, it seems to me some time ago with that you could sort of think of humanity as a biological bootloader for digital super intelligence.
つい最近気づいたのですが、人類はただ、超越的な人工知能の“ブートローダ”にすぎないのかもしれません。
If you do not know what bootloader is, it is a very tiny piece of code, without which the computer cannot start.
ブートローダとは何かと言うと、それは1つの短いコードです。このコードがないと、コンピュータを起動することはできません。
But it’s like the minimal bit of code necessary for a computer to start.
翻って言えば、それはコンピュータを起動させるためだけに存在するものです。
Like you couldn’t evolve silicon circuits, you knew they needed to be a biology to get there.
シリコン生命体はどうやら自己進化できないらしく、したがって、彼らは人間という存在によって、最初の進化を起こしてもらう必要があるのです。
究極な生命体
この発言をよく味わうと、先ほどまで説明していた、別の惑星に生きるシリコン生命体のイメージとはまったく異なる、私たちが今まで気づいていない別の形の“シリコン生命体”の存在に気が付きます。冒頭部分でもお話ししましたが、生命体には、「成長、繁殖、刺激への反応、進化」という特徴を持っています。仮に、“地球生命と似ていなければならない”というロックを外して、「成長、繁殖、刺激への反応、進化」だけを基準として考えると、非常に面白い結論が浮かび上がってきます。
皆さんもご存じのように、コンピュータという偉大な科学技術のキーとなっている電子部品、CPU、GPU、メモリと回路は、全部半導体材料で作られています。そして半導体材料はシリコンを主成分としてできているものです。コンピュータはこれまで、道具もしくは機械としか認識されていませんでしたが、人工知能技術が急速に発展している現在においては、コンピュータは少しずつ生命体の特徴を持ち始めています。
先日のChatGPTの動画でもお話しましたが、今の人工知能は既に、“自我”を持ち始めているかのように見えるほど発展しています。このままさらに発展していくと、高度なAIが搭載されているコンピュータは、生命体の要素のうち、「刺激への反応」と「進化」という特徴を獲得するでしょう。その進化の先には、さらに「成長」と「繁殖」という要素の獲得もありえるかもしれません。
そうなった時に、先ほどのシミュレーションにあったような別の惑星に生きるシリコン生命体とは全く異なった形のシリコン生命体が誕生します。このようなシリコン生命体は、映画『トランスフォーマー』で描かれた命を持った変形ロボットのように、その体だけは機械のようなものでできており、自己意識、感情、知恵などの点においては、我々炭素生命体と全く変わりがありません。ただし、彼らの体には普通の生命体のような老化や自然死亡といった現象がないので、エネルギーの確保さえできていれば、彼らは不老不死に近いことを実現できます。仮に体が事故などで壊れたとしても、データ形式として存在している意識を別の体に移せば、その個体は自分の“人生”をいくらでも伸ばすことができます。
彼らは長い人生、ないしは永遠の人生において、膨大な知識を蓄積することができ、より簡単に高度な技術や知識を生み出すことができます。このような存在がもし地球で誕生したら、その意志さえあれば、彼らはあっという間にこの星の統治者になれるでしょう。もしこのような光景が本当に未来で起きるのなら、まさにイーロンマスクの言っているように、今の私たちはとんでもない存在を知らず知らずのうちに作り上げつつあるということになります。
もちろん、このような存在もシリコン生命体についての1つのシミュレーションにしかすぎません。ただ、今回の動画で少なくともお伝えしておきたいことがあります。私たちが宇宙生命について考えている時、「彼らは絶対に地球生命、そして人類と似ているのだ」というロックを頭から外さないと、恐らくいつになっても私たちは彼らの存在を発見できないし、仮にいつか出会ったとしても、それが生命体だと認識することさえできないでしょう。
こうして言葉にしてみると「そのくらい自分は分かっている」と容易に理解した気になってしまいますが、このようなロックは私たちの頭に思っている以上に強く定着しています。それを取り去るには、常に探究し、絶えず努力し続けなければなりません。そうやって、これからも皆さんと一緒に、真実に迫っていけたらと願っています。
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