【宇宙の終焉】恐ろしい宇宙の最期

はじめに

この宇宙はビッグバンによって誕生し、138億年に渡って存在している、というのが現在の科学界の一般的な認識です。しかし何事においても、始まりがあれば、必ず終わりもあります。宇宙に関しても同じです。現時点では宇宙の終わり方に関しては概ね3パターンが提唱されています。その中には、怖すぎて知らなかった方がよかったという理論もあれば、「死」に対して恐怖を感じる私たち人類に希望を与えてくれる理論もあります。

今回は、宇宙は一体どのようにして終焉を迎えるのか?という、この世界の終わり方についてお話していきたいと思います。気になる方はぜひ最後までお付き合いくださいね。

 熱的死

このような粗相は、誰でも経験したことがあるのではないでしょうか。中身の入ったワイングラスを高そうなカーペットの上に落してしまった。それが自分の上司の家だったら。そのようなことをやらかしてしまった僕は、二度とその上司の家に招待されることがなくなりました。

なぜこぼれたワインや割れたワイングラスの破片が元の状態に戻れないのか?と時々思うようになりましたが、その現象の裏には宇宙を支配している1つの法則が潜んでいます。それは、「エントロピー増大の法則」です。この法則の存在によって、宇宙は「熱的死」という絶望的な最期を迎えると考えられています。「エントロピー増大の法則」と「熱的死」を説明するために、まずは「エントロピー」とは何か?から見ていきましょう。

エントロピーは、物事の「乱雑さ」、「混沌さ」、「無秩序な状態の度合い」を表す概念で、秩序のある状態から混沌状態になっていく過程が、エントロピー増大の過程となります。

シャッフルしていくうちに増大するエントロピー

例えば、新しいトランプは、番号とマーク順で並べられています。これをシャッフルしていくうちに、順番もマークの順もバラバラになります。ここでいう、秩序良く順番に並べられていた状態から無秩序の状態、つまりカオスな状態になっていく過程が、エントロピー増大の過程となります。

手に持っていたワイングラスが割れてガラスの破片になった過程は、エントロピー増大の過程です。砂で作られたお城が風で飛ばされた過程は、エントロピー増大の過程です。物事は無秩序であればあるほど、エントロピーが高くなることになります。逆に秩序があればあるほど、エントロピーが低くなります。これで「エントロピー」と「エントロピー増大」の意味は理解していただいたと思います。

次は、先ほどお話した、宇宙は「エントロピー増大の法則」によって支配されている、というのはどういう意味なのかを見ていきましょう。

物理学者のルドルフ・クラウジウスが熱力学の研究の中で、エントロピーの概念を導入しました。その概念を用いて様々な研究をしていくうちに、彼は1つの事実にたどり着きました。ある物が、温度が高い状態から低い状態になっていく過程、例えば、沸いたお湯が冷めて常温の水になっていく過程において、そのエントロピーが高くなっていきます。さらに、お湯だけでなく、この宇宙に存在しているすべての物事は、それを自然のままに放っておくと、そのエントロピーは必ず増大していきます。外からその物に対して故意に何らかの作用を与えない限り、そのエントロピーが減ることは絶対にありません。これが、宇宙を支配している「エントロピー増大の法則」です。

では、この法則は宇宙の終焉とどんな関係があるのか?計算によると、ビッグバンが起きた後の1秒後の宇宙の温度は100億℃ほどです。その10秒後は3億℃にまで下がりました。ビッグバンが起きた138億年後の今、宇宙の平均温度はマイナス270℃です。先ほどお話した通り、物事は温度が高い状態から低い状態になっていく過程において、そのエントロピーが高くなっていきます。つまり、温度が高い状態の物事のエントロピーは低いことを意味します。これは、100億℃のビッグバン直後の宇宙のエントロピーは、現在の宇宙のエントロピーよりずいぶん低いことを意味します。

また、温度以外の別の視点からも、同じ結論が得られます。ビッグバンが、1つの爆弾が爆発したような現象だと仮定します。その爆発後、破片が四方八方にまんべんなく散らばっていきます。元々1つの爆弾として存在していた秩序のあった状態がビッグバン直後から、無数の散らばった破片が広がったような現在の宇宙になったことからも、現在の宇宙の状態の方が、エントロピーが高いと言えます。

怖いのは、

「外からその物に対して故意に何らかの作用を与えない限り、そのエントロピーが減ることが絶対にない」

ということです。つまり、宇宙のエントロピーの増大は止まることなく進行しています。それが続くと何が起きるのか?地球のエントロピーが増大していく結果、地球が1つの“ボール”ではなくなり、バラバラに崩壊していきます。

言うまでもありませんが、その時には生命体も存在しなくなります。

では、エントロピーが最大値に達した時の宇宙は、どのようになっているのか?まず惑星や恒星などを含む全ての天体がなくなっています。最後まで残ったブラックホールでさえ、長い年月を掛け徐々に蒸発し消えていきます。この時、光を発する物が宇宙に存在しなくなることから、正真正銘の“闇に包まれた世界”になってしまいます。唯一宇宙空間を彷徨っているのは、物質を構成する最小単位の基本粒子ですが、彼らは二度と物質を構成することはありません。

これが、エントロピー増大の法則による「熱的死」という絶望的な宇宙の最期です。もちろん、この理論は100%正しいという証拠はまだなく、ビッグバン理論と同じく、1つの仮説に過ぎません。それでは次の、宇宙の終焉に関する仮説も見ていきましょう。

ビッグリップ

宇宙空間が膨張しているというのは、多くの観測結果によって証明されています。例えば、地球から遠く離れている天体ほど、地球から離れていく速度が速くなっている現象が確認されています。

私たちが日常生活において空間の膨張を感じていない理由は、銀河系の中では、空間の膨張よりも重力がもたらす影響のほうが大きいからです。

しかし、宇宙スケールで見た時に、約326万光年離れるごとに、空間の膨張する速度が秒速73.2km速くなっていることが判明しました。これは、私たちから非常に遠く離れている場所の空間の膨張する速度は、光速を超えていることを意味します。

加速する宇宙空間の膨張

さらに、現段階の研究結果によると、宇宙空間の膨張は少しずつ加速しているということです。仮にこのような膨張の加速が続くのであれば、ある時点から、宇宙における全ての要素が遠く離れて行くことになります。銀河系の中においても、物質は分散していきます。

以前は、このようなことが起きるのは遥か遠い未来だと思われていましたが、ダートマス大学のロバート・コールドウェル教授の論文によると、宇宙が空間の膨張による「ビッグリップ」という終焉を迎えるのは、今から220億年後になるということです。これは私たち人間にとってはとんでもない遠い未来ですが、宇宙の視点から見れば、「ビッグリップ」は、「宇宙の熱的死」という終焉よりだいぶ先に早く訪れることになります。

では、ビッグリップが起きた時の宇宙はどのようにて最期を迎えるのかを見ていきましょう。

まず、銀河はお互い遠ざかっていきます。その時にまだ地球上に人類が存在しているのであれば、彼らは他の銀河を観測することができなくなります。人類の知識が伝承されていない場合、彼らは「この宇宙には自分たちのいる銀河以外には何もない」と思ってしまう可能性さえあります。

そして、ビッグリップによる終焉まで約6000万年前までくると、重力は銀河系の中の物質を拘束できなくなり、銀河の中はどんどんスカスカになっていきます。終焉まで約3ヶ月前になれば、重力は太陽系の中の物質を拘束できなくなります。

最後の数分間においては、あらゆる星、目に見える全ての物質は、元の形状を保つことができなくなります。その後、物質を構成する基本要素がさらに分解され、最終的には原子レベルにまで分解されます。

基本粒子しか存在しない「世界」

その結果、宇宙は基本粒子しか存在しない「死の世界」になります。もしビッグリップという終焉の訪れが本当に220億年後であれば、その時の宇宙には、きっとまだ知的生命体が存在していると思います。そのような終わり方で最期を迎える時の彼らの絶望感は、考えるだけでもゾッとします。

サイクリック宇宙論(宇宙無限ループ説)

「宇宙には始まりと終わりがある」

というのは、現在のほとんどの宇宙に関する理論の土台となっています。しかし、そう思わない研究者もいます。このチャンネルで何度も登場している、2020年ノーベル物理学賞受賞者のロジャー・ペンローズは、そのうちの1人です。

ロジャー・ペンローズ

彼が思うには、宇宙がビッグバンによって誕生したのは間違いありませんが、そのビッグバンは、全ての始まりではなく、ビッグバンの前には、現在の宇宙の“先輩”である1つ前の宇宙は存在していた、ということです。そして、現在の宇宙が終焉を迎えた後は、もう一度ビッグバンが起こり、それによってまた新しい1つの宇宙が誕生します。

サイクリック宇宙論(Conformal Cyclic Cosmology, CCC)

この理論は、ペンローズが提唱したサイクリック宇宙論(Conformal Cyclic Cosmology, CCC)です。この理論は、現在の宇宙はまず終焉を迎えるということから始まります。その終焉の仕方としては、ビッグリップによって、全ての基本粒子が遠く離れ、物質が消失していきます。最終的には、全ての基本粒子でさえ崩壊していきます。質量を持つ粒子がなくなったことから、その時の宇宙には質量という概念が存在しなくなります。これに伴い、空間と時間という概念もなくなります。共形幾何学の観点から、その時の宇宙にはサイズという概念もなくなります。

それはどういう状態かというと、大きいイコール小さい、小さいイコール大きい、という状態になります。とても理解しがたいと思いますが、ペンローズは次のような例えをしたことがあります。チェスのボードは、大きいのもあれば、小さいのもあります。しかし、チェスというゲーム自体の本質は、ボードの大きさによって変わりません。

どういうことかと言うと、基本粒子が崩壊した後のその時の宇宙空間は、物理的な観点から見れば、非常に小さい空間に等しいということになります。空間の体積が限りなく小さいということは、その空間の密度が限りなく高い、エントロピーが限りなく低い、ということを意味します。

このような状態は、まさに宇宙を誕生させた「特異点」と同じです。次の新しい宇宙は、この「特異点」のビッグバンによって、誕生します。このような仕組みで、宇宙は永遠に「誕生」→「滅亡」→「誕生」→「滅亡」というサイクルでループしている、ということです。

仮説に過ぎないこの理論ですが、最近は、この理論の正しさを示唆したいくつかの観測結果が発表されています。宇宙は最後の段階において、全ての天体が消え、多くのブラックホールしか残らなくなります。

「ホーキング放射」によって消えていくブラックホール(スティーブン・ホーキングの理論)

当たり前のことですが、これらのブラックホールは永遠に存在することができません。スティーブン・ホーキングの理論によると、ブラックホールは「ホーキング放射」によって蒸発し消えていきます。

ペンローズの予想では、最後に残ったこれらのブラックホールは、次の新しい宇宙にある程度、痕跡を残すことができ、新しい宇宙ではそれらの痕跡を観察できるはず、とのことです。ですので、もしその予想が正しいのであれば、1つ前の先輩宇宙のブラックホールが現在の宇宙に残した痕跡が、存在しているはずです。

そして、そのような痕跡について面白い発見がありました。それは、「ホーキング・ポイント」という発見です。宇宙望遠鏡「プランク」によって撮影された宇宙背景放射において、約30個の同心円が見つかりました。ペンローズが思うには、これらの同心円は、先輩宇宙の末期に存在していたブラックホールが融合した時に発した重力波が、現在の宇宙に残した痕跡だという事です。もちろん、これらの「ホーキング・ポイント」はまだ決定的な証拠とは言えませんので、サイクリック宇宙論は仮説の範疇に留まっています。

最後に

宇宙がどのように最期を迎えるかは、正直私たち一人一人と関係のないことです。それなのになぜ科学者たちは懸命にこれらのことを研究しているのか?それは、これらの研究を通して、私たちが世界の真実を知ることができる可能性があるからです。

人生には様々な後悔がありますが、何も知らないままここの世を去っていくのも、1つの大きな悔いになるのではないでしょうか。

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