人間は本当に自由意志を持っているのか?その決断は、本当にあなたが下したのか?

生命体の不思議

はじめに

あなたの目の前に、美味しそうなお寿司の盛り合わせが置いてあります。「サーモンかマグロ、まずはどれを食べようかな」と悩んだ結果、あなたはサーモンを選びました。このように、自分の気持ちや意欲で自由に物事の決断を下す能力を、「自由意志」と言います。私達人間が下す様々な意図的な行為や決断は、自分の自由意志によって決められていると思われています。しかし現在の学界においては、自由意志は存在していないという考えを持つ研究者が多くいます。しかもその考えは机上の理論だけではなく、実験によって証明されているのです。

自由意思についての実験

初めて自由意志に関する研究を実験レベルに持って行ったのは、カリフォルニア大学の研究員兼医師のベンジャミン・リベットです。1983年に、彼は次のような実験を行いました。まず、被験者の頭部に脳の活動を監視するための脳波計を設置し、手首に筋肉の動きを監視するための筋電計を設置しました。次に彼は、ある特殊なタイマーを用意し、被験者をタイマーの前に座らせ、自分の好きなタイミングで手を上げるように指示しました。その際、次のようなお願いをしました。

「手を上げようと思った瞬間のタイマーの位置を覚えて、後に報告するように」

この実験から、ベンジャミンは次の3つの時刻情報が得られます。

  1. 被験者の「手を上げよう」という意志が誕生した時刻
  2. 脳波計による、脳が手に指示を出した電気信号が出現した時刻
  3. 筋電計による、手が動いた瞬間の時刻

一般常識から、この3つの時刻の順番は、「手を上げよう」という意志が最初に誕生し、次に手に指示を出す脳の電気信号が出現、そして最後に手が動く、という順番です。しかし実験から観察された結果は、手に指示を出す脳の電気信号が最初に出現し、平均して0.3秒後に、「手をあげよう」という意志が誕生し、最後に手が動いた、という意外な順番でした。0.3秒という差は、被験者がタイマーを読む際の誤差ではないかかと思うかもしれませんが、ベンジャミンが比較対照実験として行った、タイマーを読む際の誤差範囲を確認したところ、平均して0.05秒でした。この対象実験の結果から、「手を上げよう」という意志が誕生する前に、脳が既に手を上げなさいという命令を出していたことが分かりました。

決断の源であるはずの意志が、なんと決断の誕生する過程に参加していないということです。

他の研究者による検証

この奇妙な結果に対して、他の研究者たちが検証を行わないはずはありません。しかし、彼らはベンジャミンの結果を覆すことができなかったうえ、逆にその正しさを証明する結果を導きました。そのうちの一人、韓国の神経科学者のChun Siong Soonが2008年に学会誌「Nature Neuroscience」で発表した論文が最もショックな内容でした。彼の研究チームが、神経イメージングの中でも最も発達した手法であるfMRIを用いて被験者の脳をスキャンしながら、被験者に、自分の意志で自由なタイミングで、二つのボタンから一つ選び、それを押すように指示しました。研究チームが、fMRIのスキャン画像から得られる情報をもとに、被験者がどのボタンを押すかを予測しました。実験の結果、ほぼ毎回被験者が選んだボタンを正確に予測でき、さらに2名の被験者に対しては、なんと7秒から10秒前に正しい予測結果を出していたことがわかりました。

これらの実験結果が何を意味するかと言うと、人間の意図的な判断や行為は、人間の意志による結果ではなく、脳の電気信号による結果だということです。お寿司の例で説明すると、お寿司の盛り合わせがあなたの目の前に持ってこられた時に、既にあなたの脳がまず「サーモンを最初に取りなさい」という電気信号を手に送ります。そして脳が、「サーモンを選んだよ」という結果をあなたに通知します。最後に、脳が決めた結果を、あたかも自分の自由意志だと思い込み、美味しくサーモンを食べたということになります。

以上が、自由意志は実は存在しないという結論に至る過程です。ここでよく次のような反論があります。

最初に出現する命令を出す電気信号は人間の脳によるものだから、その信号自体が人間の自由意志になるのではないか

真実の目
真実の目

確かにその通りと思われるかもしれませんが、深く考えてみると、やはり自由意志は存在しないという結論に至ります。今からその理由を説明しますね。

人が自由意思を持っていない理由

私達の脳と体は、物質で構成されています。脳の中で出現する電気信号は、体が外部から刺激を受けた後の脳の反応だと言われています。ここで、次のような装置があったと仮定します。ある装置が体にある全ての物質の状態を検出でき、別の装置が外部環境における全ての状態を検出できる。これらの装置による結果を、古典力学の物理法則を利用して、現在の体内と体外にある物質の状態から次の瞬間の物質の状態を計算することにより、次に脳がどのような電気信号を作るのかを予測できます。つまり、その人が次の瞬間に下す決断を予測することができるということです。これを一瞬間ずつ計算していけば、その人の未来における全ての行為と決断を予測することができます。逆に言うと、人間の全ての意志や考え方は、既に決定されており、人間は自由意志を持っていないということになります。

「決定論」

現在の状態は以前の状態によって決まっているという考え方は、近代物理学が持っていた決定論という考え方です。決定論というのは、物事の全ての状態は、それ以前の状態から物理法則に従って変化しているので、未来における全ての状態が既に決定されているという理論です。この理論は100年以上の間、正しいと思われていましたが、現代物理学の量子力学が誕生してから、その考え方が変わりました。前の投稿でもお話ししましたが、物質を構成する分子、原子、電子などの粒子は、不確定の状態で存在しています。ですので、量子力学の考え方としては、物事の状態は不確定で予測できません。

真実の目
真実の目

これで決定論が覆されたように見えますが、実はそう思わない科学者たちも多数存在しています。なぜなら、不確定で予測できないのは、ミクロスケールの世界だけです。マクロスケールに上がると、物事は古典力学の法則に従っているという事実に変わりはありません。

「ブロック宇宙」
3次元へ時間軸を追加

また、アインシュタインが違う観点から決定論と似たよう結論を出しています。アインシュタインがこの三次元の世界に、「時間」という4つ目の次元を追加して、過去、現在、未来における全ての物に座標を付けられる「ブロック宇宙(block universe)」という宇宙モデルを提唱しました。アインシュタインの理論の中では、時間と空間はそれぞれ独立した存在ではなく、相互に関連しています。宇宙が誕生した瞬間から、全ての時間と空間が形成され、全ての出来事も起きていました。別の言い方をすると、未来の出来事は、宇宙が誕生した時点で既に起きています。常識をかけ離れた理論ですが、2016年に開催された宇宙科学に関する学会で、ブロック宇宙論が正しいと思うかの投票が行われた結果、多数の物理学者たちが、「正しい」に投票しました。

もちろん、これは決定論とブロック宇宙論が絶対に正しいというわけではありません。人間は自由意志を持っていないという結論に反対する研究者もたくさんいます。しかし客観的に見ると、未来の出来事が既に決まっているからこそ、脳内で出現するあの電気信号が、人間の行動を次の瞬間の決まった行動に導いていると言えます。人間が自由意志を持っていないということは、未来が既に決まっていることを表すという理論は可能になります。自由意志が存在しないことと決定論は、お互いにその正しさを証明し合っています。量子力学における多くの不思議な現象も、時間が存在しない、因果関係が存在しないという前提で考えてみれば、説明がつく場合もあります。

おわりに

ここまでお話して一つ言いたいのは、僕は決して決定論が正しい、決定論を信じろという目的でこの投稿を作っているわけではありません。むしろ、自由意志が存在しないという悲しすぎる理論が間違ってほしいと思っています。仮にいつか、それが正しいと証明されたとしても、私達は人生をワンシーンずつ楽しむべきです。次のような事例を想像してみましょう。映画という存在を知らない人に、途中までのシーンを見せて、「実はこれ、全てのストーリーが既に決まっているよ」と教えてあげても、その人が最後までストーリーを楽しむことに全く影響がありませんよね。

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