スティーヴン・ホーキング博士が送る、人類の難問への究極の答え!

宇宙奇譚

はじめに

私たち人類はどこから来たのか?宇宙人は存在するのか?タイムトラベルは可能なのか?ブラックホールの中には何があるのか?この世界はどのようにして始まったのか?宇宙は誰かが設計したものなのか?神は存在するのか?私たちが求めてやまないこれらの難問への答えが明らかになるのは、おそらく遥か遠い未来のことでしょう。

しかし、人類の中でも別格の頭脳を持つ賢人たちは常にこれらの疑問に挑み続けています。そのうちの一人が、スティーヴン・ホーキング博士です。アインシュタイン以後、最も知名度の高い物理学者のホーキング博士は、晩年に宇宙についての究極的な問いに対する自身の回答を『ビッグ・クエスチョン〈人類の難問〉に答えよう』という本にまとめました。今回は、ホーキング博士が人類の難問にどのように答えたのかを見ていきましょう。

ぜひ最後までお付き合いくださいね。

ホーキング博士は大学院在学中、弱冠21歳の時に、ALS(筋萎縮性側索硬化症)という非常に珍しい病気であると診断されました。

医者に「余命2年」と宣告されてしばらくの間、彼は深い悲しみと絶望に打ちひしがれましたが、このまま宇宙の秘密を何も知らずこの世を去ってしまうとは、これ以上に悔しいことはないと気づき、彼は未知の領域の研究に自分の生涯を捧げることを決めました。医者にとっても彼自身にとっても予想外なことに、病状は悪化していくものの、その命は奇跡的にも持ち堪え続けました。そしてその年月を賭して、彼は数多くの素晴らしい理論を打ち立て、中でも特にブラックホールや時間の本質についての新たな理論を次々と世に問いかけ、科学界に衝撃を与えました。さらに、他の物理学者たちと異なり、ホーキング博士は物理学の普及にも大いに貢献しました。

彼の著書『A Brief History of Time』は、40以上の言語に翻訳され、1,000万部以上を売り上げた大ベストセラーとなっています。そして、博士が晩年に著した『ビッグ・クエスチョン〈人類の難問〉に答えよう』は、この宇宙についてさらに深く考察したものです。

本の中では、「宇宙の始まり」、「神の存在」、「タイムトラベル」、「ブラックホール」、「地球外生命体」などの、究極の問いとも言える難問に対する博士の解答がまとめられています。本書は一般向けに書かれていますが、さすがに物理学の知識がないと太刀打ちできない難しい内容も多少なりと含まれています。ここからは、それらの内容をできるだけ理解しやすい言葉でご紹介したいと思います。それでは、ホーキング博士が見出したこの世界に対する答えを見ていきましょう。

地球外生命体は存在しているのか?

理論物理学者であるホーキング博士も地球外生命体の存在について関心を持っていました。ただ、彼は宇宙生命の存在を考える前に、まずは生命の形態について考える必要があると判断したようです。地球にいるほとんどの生命は炭素原子をベースに形成されていますが、炭素と性質が似ているケイ素も生命体を形成する可能性があります。

しかしながら、様々な観測結果から、炭素が生命にとって最も有利な元素であるというのが現段階の結論であり、少なくとも観測可能な宇宙においては、炭素以外の元素に基づく生命体が存在する可能性は非常に低いとホーキング博士は考えています。

次に、地球生命について見てみると、最新の研究結果によると、必要な条件を満たした環境であれば、生命体の誕生は思ったより簡単に起こりうることが示唆されています。ですので、地球と似た環境を持つ惑星があれば、そこで地球生命と似たような炭素生命体が誕生することは十分にありえるのです。

そして、地球と似たような惑星の数を確率的に計算したところ、そのうちいずれかの惑星で地球外生命体が存在する確率は非常に高いことが分かりました。ただ問題は、その中でどれだけの生命が人類のような知的生命体に進化するかということです。すなわち、「高度な知恵の誕生」は生命体の進化の最終目標ではないようだとホーキング博士は考えており、生命の誕生そのものより、高度な知恵の誕生のほうがよほど難しいと見ています。

したがって、いつかは地球外生命体が見つかるかもしれませんが、その中で知的生命体と相見える確率は非常に低いです。ただし、確率が低いとは言え、ホーキング博士は高度な知恵を持つ地球外生命体の存在を否定していません。ではなぜ、私たち人類は今まで宇宙文明の痕跡を発見できていないかというと、それは単純に、それぞれの文明が遠く離れすぎているからです。高度な知恵と科学技術を進化させたとしても、宇宙の広すぎるスケールの前では、寿命のある生命がほかの文明と出会うことはほぼ不可能です。SF映画に登場する様々な光速を超える移動手段は、文明がどれほど発達したとしても実現できないものであるとホーキング博士は考えています。なぜなら、それらは物理法則を超えた非現実的なものだからです。

しかし一方で、博士は普段から次のようなことも常々口にしていました。

「もしいつか宇宙文明から何らかのメッセージを受信したとしても、絶対に返事してはいけない。人類はいつも宇宙文明が美しく平和であると夢想しますが、私はそうは思いません。クリストファー・コロンブスがアメリカ大陸を発見した後に起きたことは我々の身にも起きる可能性が十分にあります」。

タイムトラベルは可能なのか?

多くの議論の中で、「時間は実在するものか」という問いに対して、時間は現実的に存在しているものであるという考え方がある一方、時間はただ人間が作り出した概念にすぎず、宇宙自体にとっては、時間など存在しないという考え方もあります。ただ、どちらの立場も、タイムトラベルは可能なのかという問題に悩まされています。ホーキング博士が思うには、タイムトラベルは「未来へ」と「過去へ」を別々に考えるべき問題のようです。まず「未来へのタイムトラベル」についてですが、これは理論上では実現可能です。

その1つの方法は、運動速度を上げることです。アインシュタインの特殊相対性理論によると、物体の運動速度が速くなるほど、静止状態の観測者に対してその物体の時間は遅く経過します。これは何を意味するのかというと、例えば、双子の兄のほうを生まれてすぐに光速の10分の1の速度で飛行する宇宙船に乗せて宇宙空間を飛び続けるとします。

一方、弟は地球に残り通常の生活を送ります。そして、地球で30年が経ったあと、兄が乗っている宇宙船は地球に戻ってきます。この時、弟はもちろん30歳になっていますが、宇宙船から降りた兄は、まだ15歳の少年です。この時の兄本人からすれば、彼は15年後の未来の地球にタイムトラベルしたことになります。このような、運動速度が速くなるほど、時間の流れる速度が遅くなるという現象は既に実験によって実証されています。ですので、高速で移動し続ければ、確実に未来の世界に到達することができます。

もう1つの未来へ行く方法は、重力の強い場所に入ることです。アインシュタインの一般相対性理論によると、異なる重力場にいる観測者にとって、時間の流れる速度は、強い重力場では遅くなります。つまり、自分がいる場所の重力が強ければ強いほど、時間の流れる速度は遅くなるということです。現在知っている最も重力が強い場所はブラックホールの中です。

ブラックホールの中では、その時間の流れは極めて遅くなります。そのため、ブラックホールの付近を通過するだけでも、その間の自身における時間の流れる速度が遅くなるため、ブラックホールを離れた場所に再び戻れば、その世界は既に数十年後になっているということはありえるのです。

次に、過去へのタイムトラベルについてホーキング博士がどのように考えているのかを見ていきましょう。1935年、アインシュタインとネイサン・ローゼンは「アインシュタイン-ローゼン橋」という数学的仮説に基づく時空構造モデルを発表し、後にそれは、「ワームホール」と呼ばれるようになりました。

ワームホールは、空間と時間を曲げて、2つの異なる場所や時間を直接つなげるトンネルのような構造をしています。ワームホールを通じて移動すると、数百光年離れた場所にも瞬時に到達できるだけではなく、過去や未来へのタイムトラベルさえ実現できます。ワームホールは理論上存在しうるものであって、ホーキング博士もワームホールによるタイムトラベルの可能性を認めています。

しかし、それにはいくつかの大きな問題点もあると博士は考えており、実際的なタイムトラベルには大きな障害があると認識しています。まず、安定したワームホールを開くために必要とされるエネルギーは莫大すぎて、人為的に実現できるレベルの話ではなく、この事実だけでも現実的な道はほとんど閉ざされてしまいます。

そして次に、仮に過去へのタイムトラベルが実現可能であるのなら、「祖父のパラドックス」という問題が生じます。すなわち、ある人が過去に戻って、血の繋がった祖父を祖母に出会う前に殺してしまったら、その人の親が生まれてこなくなり、結果として本人も生まれてこないことになります。したがって、存在しない者はタイムトラベルをすることもなく、祖父を殺すこともできないため、祖父は死なずに祖母と出会います。すると、やはり彼はやがて生まれてきて、タイムトラベルをして祖父を殺す……。

このような矛盾した結果が続く「祖父のパラドックス」は、タイムトラベルが物理的に可能であるという前提に対して、大きな問題を提起します。このパラドックスを解決する理論として、多世界解釈があります。多世界解釈によれば、タイムトラベルで戻った過去は、元の世界とは異なる世界線にある世界であるため、その世界で祖父を殺すことは、何のパラドックスも生じさせないということです。この解釈についてのホーキング博士の考えは次のようなものです。

もし多世界で並行して異なる歴史が存在するのであれば、それらの歴史が存在していた痕跡はある程度観測できます。例えば、宇宙マイクロ波背景放射からそれらの痕跡を観測できるはずですが、現段階の観測結果では、異なる歴史が存在する痕跡は確認されていません。さらに、科学技術がさらに発達した未来の人類でも、過去へのタイムトラベルは不可能だと博士は考えています。その理由としては先ほどもお話したように、ワームホールを維持するのは非現実的なことであり、この宇宙は過去へのタイムトラベルを許さないような自然法則でできていると博士は考えています。

ブラックホールの中には何があるのか?

この宇宙において最も強い重力を持つ天体とされるブラックホールに、ホーキング博士は強い関心を払っていました。彼の研究の多くはブラックホールについて集中的に行われており、ブラックホールの性質を明かすための画期的な理論をいくつも提唱してきました。

例えば、研究者たちの以前の知見では、ブラックホールはいつまでも周囲から物質を吸い込み続けると長い間思われていましたが、ホーキング博士の研究によれば、ブラックホールは物質を吸い込み続けるのと並行して、自らの質量を少しずつ失っています。

この現象は、後に「ホーキング放射」と呼ばれるようになり、ブラックホールの性質を明らかにする非常に重要な発見となっています。

このように、ホーキング博士はブラックホールに特化した理論物理学者という一面も大いに持っているので、彼による「ブラックホールの中には何があるのか」という問いに対する答えは非常に気になるところです。ただし、ホーキング博士の答えは、それまでの段階の研究結果を超えるものではありませんでした。つまり、ブラックホールの中にはとてつもない強い重力を持つ“特異点”が存在する、というのがホーキング博士の答えです。

それ以上の憶測や超常的なイメージなどをあまり語らなかったのは、彼が理論物理学者として、科学的な証拠に基づいた情報を提供することに誠実であろうとしていたからでしょう。

一方、ブラックホールの性質を探る手段についてのホーキング博士のアイデアとして、LHCなどの粒子加速器を利用することを提唱しました。LHCは、マイクロブラックホールを作り出すことができると考えられています。その性質を観測することによって、ブラックホールへの理解を深めることができるとホーキング博士は指摘しました。作り出されたマイクロブラックホールはホーキング放射によってすぐに蒸発し消えるため、それが地球を破壊する恐れもないと言います。

さらに、ホーキング博士は彼なりの、ブラックホールの存在意義についても語りました。この宇宙空間を1つの広い砂漠に例えると、この砂漠のどこもかしこもが同じ見た目をしているので、あなたはその中をさまようとき、今いるところがどこなのか、自分がどの方向に進んでいるのかを判断するのは非常に困難です。しかし、もし砂漠にオアシスや目立つ岩、あるいは何かしらの目印があれば、それが方向を示し、自分がどこにいるのかを理解する手助けになります。ホーキング博士は、ブラックホールをこの砂漠の中のオアシスや目印に例えました。

ブラックホールはその強力な重力により、周囲の時空を歪め、その歪みが我々に宇宙の形状や構造を理解する手掛かりを与えてくれます。つまり、ブラックホールは、この広大な宇宙の中で私たちがどこにいて、どの方向に進むべきかを示す存在なのです。そして、ブラックホールの本質を理解することで、きっと宇宙全体の理解も深まるとホーキング博士は話しました。

神は存在するのか?

古くから人々はある1つの問題について考えてきました。それは、私たちはどこから来たのか?私たちを作ったのは何者なのか?そして、もし私たちを創造した者がいるのであれば、その創造者はまた誰によって創造されたのか?という問いです。長い間、世界は人格を持つ神によって創造されたと人々は広く信じてきましたが、近代に入ってから、物理学者たちはまったく異なる視点からこの問いを捉え始めました。その中でも、「神は存在するのか」という問いに対するホーキング博士の答えは、現代人なら誰しも耳を傾けるべき、次のような思想でした。

今ある宇宙がどれほど複雑で広いものであるとしても、3つの要素があれば、宇宙は誕生することができます。それらは、物質、エネルギー、そして空間です。では、これらの3つの要素はどうやって誕生したのか?もしそれらが「無」から生まれてくることがないのであれば、やはりそれらを誕生させる「神」のような存在がいるということになりそうです。

ただし、アインシュタインが発見したE=mc^2という方程式が示しているように、質量とエネルギーは等価であり、一方から他方へ変換することが可能です。したがって、エネルギーから物質が生まれるという観点からは、宇宙を誕生させるために必要なものとしては、エネルギーと空間という2つの要素を考えればよいということになります。

では、エネルギーと空間はどうやって生まれたのか?現段階の研究結果から、それらはビッグバンによって生まれたことが分かりました。つまり、138億年前、ビッグバンという事象によって、エネルギーが生まれ、空間はその時点から膨張し続けているということです。これは1つの風船が膨らむように、空間が生まれ、その中にエネルギーが広がったと理解することができます。

では、この風船を膨らませたのはやはり「神」なのか?ホーキング博士の答えは「No」です。彼は、これらを引き起こしたのは神ではなく、「負のエネルギー」だと言います。「負のエネルギー」という概念を理解するために、次のシーンを想像してみてください。砂浜で砂の小山を作ろうとするときに、まずは砂浜から砂を掘り出します。その時、小山を作るための砂を得ると同時に、砂浜には穴が開きます。この穴は、「負のエネルギー」を象徴しています。

つまり、通常のエネルギー(小山)を作ることで、同時に負のエネルギー(穴)も作られ、その結果として、全体のエネルギーの和はゼロとなります。この原理を宇宙の誕生に適用すると、我々から見れば、この宇宙は「無」から誕生したように見えますが、実際のところ、ビッグバンが生み出した巨大なエネルギーと同時に、「負のエネルギー」も生まれており、全体のエネルギーの和はゼロのままです。したがって、「神」という絶対の創造者の存在を必要とせずに宇宙は誕生することができます。

この世界はどのように始まったのか?

神が存在しないのであれば、次に考えるべき問題は、この世界を誕生させたビッグバンがなぜ起こったのか、ということです。この問題について、先ほどの「負のエネルギー」と「通常のエネルギー」の話の補足をしながらお話ししましょう。実は、物理学的には、「完全な無」は存在しません。私たちが想像するようないわゆる何もない空間においても、「量子ゆらぎ」という現象が常に起きています。

「量子ゆらぎ」というのは、素粒子の生成と消滅が繰り返されることを意味するものです。

このような「ゆらぎ」によって、トータルのエネルギーの量は0になっていますが、「ゆらぎ」が起きているため、どうしてもエネルギーには「過疎な部分」と「密な部分」ができてしまいます。そして、「過疎な部分」からたまたま「宇宙のタネ」が生まれ、そこからこの宇宙空間が急膨張し始めたと考えられています。この急膨張が、すなわちビッグバンです。一見、ビッグバンによって創造されたエネルギーは「無」から生まれているように思えますが、実はそれと同じ量の負のエネルギーも存在していますので、トータルのエネルギーは0のままです。

最後に、ホーキング博士は次のようなことも語りました。「私たちが宇宙に存在すること自体、それは奇跡的なことです。しかし、もし私が愛し、そして私を愛してくれる人々がこの宇宙にいなければ、それは確かに虚無の宇宙となります。それらがなければ、宇宙の全ての奇跡が私にとっては無意味となってしまいます」。

いかがでしたか。最先端を切り拓いてきた理論物理学者によるこれらの究極の答えは、宇宙の存在や私たちの存在について新たな視点を提供してくれるものであることは疑いようもありません。一方で、ホーキング博士を含め、科学者によるあらゆる説明は、人間が自然現象を理解するための一つの理論に過ぎないというのもまた事実です。科学は、現象を理解し、予測するためのモデルを提供しますが、それは必ずしも絶対的な真理を表しているわけではありません。科学的な理論は、常に新しい発見や洞察によって更新され、進化し続けます。

それでは今日もありがとうございました。

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