はじめに
「前世の記憶」という言葉を聞くと、オカルト分野のテーマだと思う視聴者の方が多いかもしれません。しかし実際のところ、「前世の記憶」に関する研究は、既に50年間も行われています。医学誌の「Explore」では2016年に、次のようなケース・レポートを掲載しています。これはアメリカの国民の間でも有名になった話です。次の内容は、ケース・レポートから抜粋されたものです。
「Explore」で掲載されたケース・レポート
1998年、アメリカのルイジアナ州に、James Leiningerという男の子が生まれました。
2000年、彼が1歳10か月になった頃に、Jamesのお父さんは彼をダラスにある「カヴァナー航空博物館」へ連れていきました。ここは、第二次世界大戦の飛行機を展示した博物館です。Jamesはこれらの飛行機を見た時、異様に興奮した様子でした。
その中で、お父さんが1つの飛行機を指さしながら、「Bomber(爆撃機)」とJamesに声を掛けると、Jamesの口から、「Drop tank」という単語が出てきました。彼のお父さんは、その場では特に何も思いませんでしたが、帰宅後、Jamesが言ったDrop tankの意味を調べました。
驚くことに、Drop tankとは、古い機種の戦闘機に取り付けられる燃料タンクのことでした。お父さんが博物館で指をさした飛行機も、Drop tankが付いている戦闘機でした。
初めて飛行機を見せた我が息子の2歳未満のJamesが、なぜ親でも知らなかったDrop tankを知っていたのか。不思議に思った両親ですが、結局は偶然の出来事だと思いました。しかしその後、さらに妙なことが起きました。
博物館に行った2か月後、Jamesは、「飛行機、火事で墜落(airplane crash on fire)」という言葉を口にしながら、おもちゃの飛行機を繰り返し机に落とす、という行動を始めました。またその頃、Jamesはよく寝言で次の言葉を言っていました。「飛行機!火事!小人は出てこれない!(Plane on fire! Little man can’t get out!)」。
その後、2歳4か月になった頃、更に言語が発達したJamesは、さらに驚きの言葉を口にしました。それらの言葉の中に、“コルセア(Corsair)”、“ナトマ・ベイ(Natoma Bay)”、“日本人(Japanese)”というキーワードが頻繁に出現していました。お父さんがインターネットで調べてみると、第二次世界大戦で、アメリカ海軍はコルセア (Corsair)という戦闘機を使用していました。そして、当時のアメリカ海軍が使用していた空母の中に、ナトマ・ベイ(Natoma Bay)という小型空母がありました。驚いた両親は、「小人が出てこれない」の“小人”は誰だ?とJamesに聞くと、Jamesの答えはいつも、“私(me) ”もしくは“James”でした。誰かほかの人の名前を覚えているかと聞くと、Jamesは“Jack Larsen”と答えました。
その後、3歳になったJamesは絵が描けるようになりましたが、彼が書いた絵のほとんどは、このような戦争と思われるシーンでした。
Jamesのこれらの不思議な言動から、両親は、息子は前世の記憶を持っていると確信しました。お父さんはその後数年間をかけて、ナトマ・ベイの退役軍人とようやく連絡を取ることができ、その親睦会に参加することが出来ました。
親睦会に参加した退役軍人によると、ナトマ・ベイには、Jamesが言っていた“Jack Larsen”という人物が本当に実在していました。彼は戦闘機のパイロットだったそうです。しかし、そのJack Larsenがどこにいるのか、親睦会に参加していた人は誰も分かりませんでした。
2002年6月、両親はABC Newsの「Strange Mysteries」という番組に出演し、そこでJamesのことを話しました。様々な理由により、その回はオンエアができませんでしたが、お父さんは番組のプロデューサーの力を借りて、ようやくJack Larsenと連絡を取ることができました。
Jackによると、当時のナトマ・ベイには、James Hustonというパイロットがいました。JackとJamesは飛行機のパイロットとして、第二次世界大戦の末期、アメリカ軍と日本軍の間で行われた「硫黄島の戦い」に参加し、Jackは生き残りましたが、Jamesは戻ることが出来なかったという事です。
戦いに参加したJamesは、当時21歳でした。JackはJamesが亡くなった日に乗っていた飛行機を覚えていませんが、後で見つかった1枚の写真の中でJamesが乗っていたのは、当時2歳未満だったJamesが話していたコルセア戦闘機でした。
これらの事実から、当時のJamesの記憶は、戦争でなくなったJames Hustonの生前の出来事と一致していました。不思議なことに、Jamesは3歳以降、戦争に関する絵を徐々に描かなくなり、戦争に関する話もあまり話さなくなりました。
6歳になった頃、Jamesはこれらの記憶を完全に忘れてしまっていました。現在の彼は親からこれら当時の話を聞くと、不思議で仕方がありません。Jamesの飛行機に対する情熱は高く、パイロットになるために頑張っているそうです。
このケース・レポートによると、これらの話は全てJamesの両親による捏造の可能性はゼロではありません。彼らが数年間もかけてこのような話を作り上げたとしたら、そこから何らかの利益やリターンを得ようとするはずです。しかし実際のところ、彼から利益につながりそうな行動は出たことがないそうです。
また、研究者たちは前世の記憶に関する研究を行ってきたこの50年間において、Jamesのようなケースを多数発見しています。次にご紹介するケースは、日本で起きたことです。
日本で起きたケース
2020年2月、ツイッターに「前世のお母さんを探しています」というツイートが投稿されました。
それは、「3歳より前世の記憶を語り始め、現在7歳になる息子が、“前のお母さんに会いたい”と言っています。お母さんが今も悲しみの中にいるかもしれず、ご存命のうちに会わせてあげたいと思っています」という内容でした。
そのアカウントの中にある他のツイートを読むと、投稿者の息子は2,3歳の頃から、時折「以前のお母さん」、「バイクの事故」、「ファミコン」などの言葉を口にし始めたそうです。その言葉に、両親は驚きました。「以前のお母さん」や「バイク事故」は置いておいたとした、「ファミコン」は、1980年代から90年代までに流行っていたゲーム機です。2013年に生まれた当時3歳だった投稿者の息子が、「ファミコン」を知っているわけがありません。
その後の息子の発言から、両親は次のようなストーリーを組み立てました。
「日本のとある場所で生活していた少年は、17歳の頃に、お母さんにバイクを買ってもらいました。その少年はある日、バイクで出かけた時に、交差点で白い車にぶつかり、大怪我をしました。その少年はその場で生きていましたが、その後感染症によって亡くなりました」
投稿者の息子は、自分が乗っていたバイクと白い車の形をまだ覚えていて、事故当時の交差点の様子も絵に描いていました。このツイッターの投稿後、多くの情報が寄せられ、なんと組み立てたストーリーにあった事故でなくなった少年と思われる人の家まで特定することができました。しかし、投稿者がその家に訪問したところ、「死んだ息子のことは思い出したくない」という理由で、話をすることができませんでした。
治った傷を開かれたくない。話したくないのも、当たり前でしょう。
研究によって解明が進みつつある「前世の記憶」
現時点では、ほとんどの正統派の学者が取り扱わないテーマであるこの「前世の記憶」ですが、一部の研究者によって、ある程度のことが分かっています。
アメリカのバージニア大学精神科のIan Stevenson教授は、前世の記憶を持つとされる子供を研究しています。彼は東南アジアを中心に、前世の記憶を持つ子供の事例を2300例ほど集めています。これらの2300人は、厳密な調査と面接によって、その記憶に関する証言の食い違いがないことを確認できた上で、「前世の家族」や「前世の友人」からも裏付けが取れていること確認しています。
これらの子供の共通の特徴として、「前世のこと」を語り始めるのは、2歳から5歳までの間で、6歳を過ぎる頃になると、その記憶がほとんど無くなります。彼らが最も覚えているのは、「前世」の自分が亡くなった時の様子と、もっとも親しかった人物に関する内容です。稀なケースとして、膨大な記憶を持つ子供もいます。しかも彼らは思春期になった頃でも、それらの記憶を忘れていません。
ではStevenson教授の研究の話に戻ります。これらの子供たちが持っている「前世の記憶」は、自然死ではなく、圧倒的に事故死などの突然の亡くなり方でした。さらに、極めて稀なケースとして、2300例の中で、僅か3例の子供は、催眠中に、前世の人物と思われる人格が出現し、前世の国の言葉で話したことが確認されています。
では、一体このような「前世の記憶」や「生まれ変わり」という現象が起きた理由は何でしょうか?これから、現段階で提唱されているいくつかの解釈をご紹介します。
捏造説
親がお金を稼ぐための手段として、子供を利用して嘘をついたということです。もちろん、そのような手口でお金を稼ごうとする親は少なからずいると思います。しかし、この説は「前世の家族」や「前世の友人」から裏付けを取れたケースの存在を説明することができません。似たような主張を持つ「偶然説」もありますが、これも同様に、裏付けが取られているケースの説明ができません。
潜在意識説
この説は、子供がテレビや新聞、もしくは親の口からある人物に関する情報を見聞きしましたが、1度忘れてしまいます。その後、あることがきっかけで、その人物に関する記憶が蘇って、周りの人に話したという説です。しかし、Stevenson教授が集めたほとんどのケースは、「前世の人物」に関する情報は、テレビや新聞などで報道されていなく、「前世の家族」と「今世の家族」の間にも何のつながりもありません。そもそも2、3歳の子供がある人物に関する情報を見聞きしたとしても、その年齢から5、6歳になるまで食い違いなくそれらの情報を復元する能力はないはずです。
憑依説
これは、子供が自分と異なる意識体によって支配され、その意識体が持っている記憶が、子供の口から話されたという説です。この説の前提としては、意識は肉体と分離して存在することができることと、意識は異なる肉体の間を行き来できることを認めています。この解釈は確かに「前世の記憶」をうまく説明できますが、問題は根本的に解決されていません。つまり、なぜ人間は前世の記憶を持っているのかという問題から、「意識とは何か?」という問題にすり替わっただけです。
生まれ変わり説
これは、人間は亡くなった後、前世とは別の形でこの世に生まれ変わるという説です。つまり、私たちの意識、もしくは別の言い方にすると、私たちの「魂」が、肉体が亡くなった後で、また別の肉体と結合し、この世に生まれ変わるということです。Stevenson教授が思うには、この生まれ変わり説が「前世の記憶」の最も妥当な解釈です。しかし、人間がどのようなメカニズムで生まれ変わったのかについては、Stevenson教授は言及しませんでした。ですので、この説も結局憑依説と同じく、「意識とは何か?」という根本的な疑問にたどり着きます。
最後に
これらの説を紹介した結論として、現在の科学は、まだ「前世の記憶」という現象を説明することが出来ません。僕個人的には、生まれ変わり説が最も可能性が高いと思っています。特に東洋の文化では、「輪廻」という概念がありますが、それは、命のあるものは、何度も転生し、様々な生き物に生まれ変わるということを主張しています。
この理論を信じて、死が怖くないという人もいれば、この世の苦しみを繰り返して味合わなければならないのか、という人もいます。真相はどのようなものかは分かりませんが、もしこのような「輪廻」が本当に存在するのであれば、私たちの脳が前世の記憶を消してくれるのは、ある種、1つの恩恵だと思います。そうでなければ、今までの「前世」で体験した様々な苦しみを含む記憶を背負って新しい人生をスタートするのは、困難なことではないでしょうか?
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